花園さんが詳しい状況を説明する。
「誰かに後ろから殴られて、そのまま頭がぼぅっとして気絶したんだ。
 でも、意識を失う直前に、ぶっ倒れて床に伏せながらも、なんとか振り向くことができたんだ。
 すると、誰かが小屋の扉を閉めて出ていこうとするところが見えた。
 その恐ろしい奴は、刃物をかざしてオレを威嚇しながら、後退りして小屋を出ていこうとする。そこで目の前が真っ暗になって、オレの意識は飛んだんだ」
 その時、スタッフ達の後ろからガサガサとビニール袋の鳴る音がした。
「アニキ、俺、花園の荷物の裏からこんなもん見つけたんすけど」
 コンビニの袋を持ったスタッフの一人が進み出て、五十嵐さんに報告する。
「……酒か?」
 袋の中に入っていたのはお酒の缶だった。
「……花園、まさかお前、飲んでたのか?」
「朝から、ですか?」と和歌子が首をかしげた。
僕は聞く。
「朝から飲んでたんですか?」
「ああ。祭りでは毎年、伝統的にスタッフが集まって、祭りが始まる前、朝にほんのちょっと小屋で飲むんだ。
 もともとは早朝に酒を飲むのは神社のお堅い儀式だったんだけど、いつの間にかスタッフ達の労をねぎらうものに変化してたってわけだ」
 五十嵐さんは答えてから、花園さんを睨み付ける。
「――だが花園。お前は飲み過ぎなんだよ!」
 袋の中では、九本のビールやチューハイの缶が空いていた。ぜんぶ花園さんが一人で開けたらしい。
 花園さんは、他のスタッフが飲み終わって出ていってからも、ずっとこの小屋でこっそり飲んでいたようだ。
「横にこんなもんも置いてましたよー」と酒の空き缶を発見したスタッフが言う。
 アルコール用の消臭スプレーだった。
「酒臭さまで消そうとして、なんとまぁ」呆れる他のスタッフ。
 花園さんはしゅんとする。
「すまん、ちょっとした景気づけのつもりが、ガンガン開けてしまって……」
「…………」五十嵐さんは考え込んでいるように見えた。
 対立する花園さんに、ここぞとばかりに非難するのかと思いきや、五十嵐さんは、
「……飲むんなら午後からにしろ」
 何故かそっけなく言ったのだった。まるで、そんなことは重要じゃないとでも言いたそうに。
「まったくそうですよ。花園、だいたいアナタ、いつもいつもサボってばかりで――」
 五十嵐さんの太鼓持ちのスタッフは、ここぞとばかりにイヤミを言っているのに。
「おい花園、まさかお前、殴られたときに寝てたんじゃねぇよな」
 別のスタッフが気がついたように言った。
 花園さんは申し訳なさそうに、
「……うっ。じ、じつは……飲んだら気持ちがよくて、ちょっと居眠りしちまってた」縮こまってさらにしょぼんとする。