僕がマークしていた人物は三人だ。五十嵐さんとホオズキさん、そして未来写真の当事者の花園さん。
「あれ、そういえば、花園さんは?」このスタッフ達の中にはいないようだが……。
 あたりを見回すと、なんだか、絵飾りがされた屋台とは別の場所にも、スタッフ達が何人か集まっていくみたいだ。
 あっちはたしか、未来写真のある小屋のほうではなかったか――?
「なんかあったのかね?」と孝慈。
「気になるな……花園さんも見当たらないみたいだし。和歌子ちゃん、お願いするよ」
「了解です」
 和歌子に頼んで、小屋のほうに偵察に行ってもらった。
 それにしても、これが噂の絵飾りか。
 僕は屋台に置かれた釣り人の絵を改めて観察してみる。
 美術はよくわからないけど、優しいタッチで描かれた良い絵だと思う。
 絵を見ていると、五十嵐さんの近くにいたスタッフの一人が、絵の入った額縁を、飾られた屋台から乱暴に奪い取った。
「あ、ちょっと、なにをする!」
 賛成派のスタッフ達から悲鳴が上がる。
 そのスタッフは彼らの反応を気にせず、額縁を地面に叩きつけた。
「さて、こんな絵、とっととやっちまいましょう」
彼は絵飾り反対派で、五十嵐さんの太鼓持ちの人だった。
 絵をいきなり踏んづけようとするのを見て、反対派筆頭の五十嵐さんも驚いたようだ。
 さすがにやりすぎじゃあ――!?
 そんな時、
「……絵を踏んじゃいけないって、学校で教わらなかったか?」
 そう怒気を含んだ声で言って、太鼓持ちの足を手でがっと掴んだスタッフがいた。
 僕はその声を荒らげる人物が誰なのかを理解して、驚く。
「――お前、祭り名物の絵飾りを乱雑に扱って、ただで済むと思ってんのか!」
 真っ赤に染めた髪がスタッフ達の中心に躍り出る。なんと、ホオズキさんだった。
「なぁっ!? ホオズキさん!?」孝慈が驚く。
最初に小屋の中で見た時とぜんぜんキャラが違う。
 僕と松野とスタッフ達も目を白黒させる。
 そんな中、反対派の五十嵐さんだけはホオズキさんを横目で見ながら冷静に言う。
「こいつ、普段はキャラ被ってるからな。俺、ホオズキの同級生だが、昔は普通の奴だった」
「し、知らなかったっす」賛成派のスタッフの一人が何度もまばたきしながらホオズキさんを見る。
 当のホオズキさんは、太鼓持ちの足を絵からどけて手を離すと、コホンと咳払いして、
「……い、今のは、無しで、お願い」
といつも通りの口調で言った。
 そのまったく隠しきれてないフォローにスタッフ達一同が吹き出す。
 絵の件で対立している、と言っても物騒すぎるわけではなく、普段のスタッフは和やかで面白い人達みたいだ。
 ただ、五十嵐さんには地元の名士だという背景があって。祭りを動かす力があるということで、彼を必要以上に恐れたり、絵を踏もうとした太鼓持ちみたいに媚びを売る人が出てきちゃったり。
 絵飾り賛成派と反対派との対立は、意外とそれだけなのことなのかも――。
 じゃあ、五十嵐さんが仲の良いスタッフ達を分裂させてまで、絵飾りを気に入らない理由って、いったい――?