鈴夏のことで、なにかわだかまりが残っているのかもしれない。
 松野とはあれから鈴夏の話題には触れていないし、彼女があの八面ダイスを持っていた理由だって、わからずじまいだ。
――そして、松野と鈴夏のことで気になるのは、孝慈もだ。
 いつも通りに孝慈と話しつつも、彼の言動いっこいっこに注意を払っていた。
 なんだろう。病院の待合室で、鈴夏の話題を降った時のコージには違和感があった。
――孝慈は、何かを隠してる。
 この一週間、僕は祭りスタッフ花園さんの火事と平行して、ずっと孝慈のことをこっそり調べていた。
 彼の住む瀬奈市を訪れて、瀬奈中学の近くにも行ったし、孝慈の同級生だった何人かと話すことができた。
 そして調査の末、コージのバスケ部時代を知っている同級生に接触できた。
『――何人かの先輩が組んで、練習中に、コージに故意にケガをさせたんだ』
 同じバスケ部だったという同級生の彼は、当時何もできなかったことを後悔したように語っていた。
 孝慈はもともとミニバス時代からバスケをやっていて、かなりセンスが良かったという。中一の秋の新人戦のときには、二年生をおさえてレギュラーだった。
 だが、それを快く思わない上級生が結託して、故意に大ケガをさせた。以来、孝慈は大好きだったバスケを辞めてしまった。
 そういうことだった。
 僕は孝慈が、高校でバスケ部の練習に加わっていることを話した。
 すると同級生は驚いたようで、アイツなりに過去への気持ちを整理しようとしているのかもしれない。そう言っていた。
 これが、孝慈の過去にまつわる真実だった。でも、まだ完全じゃない。
 まだ、鈴夏との関係性が残っていた。