これをやっているのがホオズキさんだという噂になっているのだ。
『画風は違うが、絵柄を変えようと思えば、ホオズキなら簡単に変えられる。だってアイツは、歌扇野が生んだ天才画家なんだから』そうスタッフの一人が言ったのが印象的だった。
「そして未来写真の被写体で、なんらかの不幸に巻き込まれるのがあの野球帽の花園さん。
 花園さんは絵飾りの賛成派だ。ようは、このまま絵が毎年現れても、害は無いみたいだし、話題づくりにもなって良いじゃないかっていう楽観的な意見。普段はマイペースで、スタッフ達の中でも一番のサボり魔らしいけど、そのぶん流されない人らしい」
 最初小屋に入ったときのことを思い出してみても、花園さんにつくスタッフが多かった。不思議と人望はあるみたいだ。
「今回は祭りの実行委員会で、反対派の五十嵐さんが、今年は絵を見つけしだい処分するという議決を取ろうとした。
 スタッフ達の多数が彼にこわごわ従って、賛成多数で決まろうとしたとき、花園さんが反対意見を出して、その結果スタッフ達が二つに分かれたんだ」
「そういうことだったのか。でも、厳密には真っ二つじゃないんだろ? この前見た限りは、五十嵐さんがかなり不利なようすだった」
「うん。決議が保留になったまま日が経って、スタッフ達が少しずつ、花園さん側についていった。そうしていつしか人数が逆転したんだ」
「そういうことか」
 孝慈はちょっと悩んでから言う。
「普通に考えるとしたら、やっぱ五十嵐さんが怪しいよなぁ」
「絵飾りのこと? それとも未来写真?」
「絵飾りは外部の人も可能性があるし、なんとも言えんよ。……あっ、絵って言えば、あれ、たしか俺たちが小学生の頃だよな、ここの石垣に落書きして捕まった人がいたっけ」
 歌扇野公園は城跡だ。その石垣のじつに半分に、ペンキで落書きがされた事件。孝慈も覚えていたようだ。
「それについても調査済みだよ」
 僕の聞き込みによると、その当時の犯人はじつはスタッフ達の中の一人だった、ということは絶対にないらしかった。
 落書きの犯人は当時は十代の若者で、家庭裁判所に送られて保護観察となった後、更生して今は県外で普通に働いているらしい。
 ただ、毎年祭りに合わせて歌扇野に舞い戻って、何らかの目的で絵飾りをやっている可能性もゼロではない。その線はかなり薄いが。
 それらを踏まえて孝慈は答える。
「だから、絵飾りの犯人は誰か。ちまたで言われてる通りホオズキさんかもしれないし、もしかしたら花園さんや五十嵐さんかもしれない。
 当時の石垣落書き元少年が罪滅ぼしのためにやってたとしても、あり得なくはない。
 これに関しては今の時点ではわからんし、正直誰が絵飾りをやってようと驚きはないな」