言い争う中央では、一人の強面の男性が声を荒らげている。
「――だから、こんな気味の悪いもん、捨てちまえっつってんだろうよ!」
 スタッフ達の輪は、床に置かれた何かを取り囲んでいるようだ。
「五十嵐《いがらし》さん、落ち着いてよ」
 声を荒らげる男性の正面、のんびりした声音で言ったのは、さっきの野球帽の男性だった。
 五十嵐さんと呼ばれた怒鳴っている男性は、野球帽の男性をキッと睨み付ける。
「落ち着けだと? オメェが反対したからこうやって意見が割れてんだろ、花園さんよぉ」
 野球帽の人は、花園さんというらしい。しかし、何の話をしているのだろう。
 花園さんは肩をすくめて言う。
「だったら、さっさと多数決とってソイツの処分を決めちゃえば良いだけでしょう?」
「ぐ……それは……」
 五十嵐さんは部が悪そうに二十人ほどのスタッフ達を見回した。
 よく見ると、五十嵐さんと花園さんが小屋の真ん中にいて、そのうち五十嵐さんから右側には八人のスタッフ、花園さんから左側には十人以上のスタッフがそれぞれ成り行きを見守っている。
 なんだかまるで、何かの意見をめぐって花園さん派と五十嵐さん派とに分かれているみたいだ。
「…………」
 ふと、五十嵐さん側にいたスタッフの一人がかがみこんで地面を眺めだした。
 彼の視線の先、地面には、額縁に入った何枚かの絵が乱雑に積まれて置かれている。事情はまだ分からないが、この絵のことで言い争っていたのだろうか。
 風景画や人物画のようだが、あの絵にはなんだか見覚えがあるような……。
「聞いてんのか、ホオズキ!」
 五十嵐さんが、かがみこんで絵の山を見つめる男性を叱りつける。
「…………」
 彼は絵を見つめるのをやめて立ち上がると、無言で、ぬーっと五十嵐さんの前に歩みでた。
 僕はその人を見て少し驚く。
 しゃがんでいた時は頭が他のスタッフのかげになってよく見えなかったが、頭を見ると、髪の毛を真っ赤に染めていた。
 呼ばれた名前からして、彼はホオズキという人らしい。ニックネームか何かだろうか?
「ホオズキ、そんなことしない」とホオズキさんが無表情で言う。
「――あの人、自分のことを僕や私じゃなくて、ホオズキって呼んでますね。変わってます」聞いていた和歌子が呟いた。
 五十嵐さんは不機嫌そうにホオズキさんを睨み付ける。
「けっ、ちょっと天才呼ばわりされてるからって、キャラ作りやがって」
「五十嵐、それは禁句」とホオズキさんが無表情のまま肩をすくめる。
「あっ、自然体じゃなくて、演じてるんですか」と和歌子が目をまるくした。
 五十嵐さんはホオズキさんから視線を外し、不機嫌そうに足踏みする。そして、足元の絵の束をギロリと睨み付けた。今にも蹴りそうな雰囲気だ。
「花園のせいだぞ。……ったく、時間とらせやがって」