その線香花火のような感覚を逃がさないように、僕はゆっくりと孝慈に答えた。
「……答え、出せそうかも。鈴夏との『思い出』の、たしかな答えを」
「やってみせろ。ただし、一週間以内でな」
 孝慈のまっすぐな言葉を噛みしめながら、ふと、思うことがあった。
「あのさ、回りくどいみたいだけど」
「うん?」
 孝慈の笑いがピタリと止まる。
「――孝慈は鈴夏と、どういう知り合いだったの? やけに事情通な気がしてさ」
「……だから、俺は鈴夏とは同じ小学校で、小学生の時から好きだったんだよ。何度も言わせんな、恥ずかしい」
 一番知りたいことを、孝慈ははっきりとは言わない。代わりに興味無さげに答えた。
「あ、けど、鈴夏が施設で育ったってのは本当だぜ。それは誓う」
 孝慈のそんな返答に、僕はふっと息を漏らした。
「そうか。ま、孝慈への疑いなんて無いんだけどさ」
 僕と松野と孝慈。松野がどうしてダイスを持っていたのかはまだわからないけど、孝慈まで鈴夏に繋がるだなんて。
 松野と孝慈は同じ中学だっただけじゃなく、鈴夏に何らかのかたちで関わってた。
 本当に、僕たちは不思議な縁だ。
 鈴夏を知ってただけじゃなく、和歌子がきっかけでグループワークも一緒にしているなんて。
 松野や孝慈と、鈴夏のことを話してみたい。もう一度、思い出と向き合ってみたいと、強く思った。
「ありがとう、コージ」
「……おう」
 それから、僕は聞きたくても聞けなかった疑問を口にする。この際だし、という何気なさで。
「ねぇ、前から気になってたんだけど、コージってバスケやるんだよね」
「……ああ。部には入ってないけど、たまにバスケ部の練習覗いたりはする」
 僕はグループワーク開始の日に、廊下で相坂さんが言った言葉を思い出していた。
「コージ、実はそのことで、ちょっと聞きたいんだけど」
「……ん?」
「コージって中学の時、ケガでバスケ部を辞めちゃったって聞いたんだけど――、本当なの?」
「…………!」
 孝慈は一瞬くちごもると、
「……ま、俺が辞めたのはそういうことだな。……あ、俺、今から用事あるんだわ」
 早口に答え、突然立ち上がった。
「え?」
 しんみりした空気が、急に慌ただしくなる。
「悪いィ! また後で」
「あ、うん……」
「じゃあな」
 孝慈は背を向けたまま言うと、休憩所から去っていった。
――コージ?
 その不穏さが、今までの夏らしい感覚を帳消しにしていく。
 まるで、水溜まりに落とした線香花火のように。