学校の目と鼻の先にある、市の総合病院。
 消毒液の臭いがかすかにする、病院の一階の広い待合室。
 僕たちは、長椅子に腰かけ、松野が診察から戻ってくるのを待っていた。
 横に座る孝慈は、腕を組んで黙りこんでいた。
 伏し目がちにして必死に抑えてはいるが、落ち着かない視線から、動揺しているのが見てとれた。
 それから、いつもの季節外れの制服と、袖の余ったカーディガン。待合室の長椅子に座りながら、和歌子は言う。
「だいじょうぶ、なんでしょうか……」
 待ち時間がほんとうに長く感じられた。
 松野が戻ってくる間、彼女の鈴夏との繋がりについて考えていた。
 だが、あの手紙だけでは何も分からなくて。僕の思考は同じ場所を落ち着きなく歩き回っていた。
 やがて、松野がようやく待合室に戻ってきた。和歌子が立ち上がって彼女に駆け寄る。
「瑞夏さん、――どうでした?」
「………………」
「……はい? わかりました」
 そして、松野はというと、診察室から戻るなり、和歌子を中庭に呼び出していった。
「お待たせしました」
 和歌子が松野とともに戻ってきた。和歌子は言う。
「瑞夏さんは、失声症(しっせいしょう)のようです」
 失声症。
 聞きなれないことばだった。
 言葉を発することができない松野の代わりに、和歌子が簡単に説明した。
 声が出なくなる症状で、重度のストレスなど、心理的要因で引き起こされる一時的なもの、らしい。
 手術が必要なものではない。
 それを聞いて、ほっとする。
 ただ、心理的ストレス、というのが気になった。
 松野は重圧を抱えていたこと。
 そして、それはきっと鈴夏にまつわることで間違いないということ。
 どちらにせよ、治るまで日常生活でいっさい会話ができないという不便さ、そして精神的な辛さは、想像に難くない。
 それでも、松野は明日以降のグループワークも続けたいという。
 なんだかモヤモヤした気持ちが、僕を含めた皆の間に漂っていたけれど、もう遅いので、今日のところは解散する。
「前から気になってたことが」
 和歌子が言う。
「『座敷わらしのおまじない』のことは、何かわかりました? こんな時になんですけど、気になってて」