左側の民家と民家との隙間に黄色いトラックが見えた途端、僕は写真を握りしめたまま叫んでいた。
「……先に謝っとくよ。さっきは疑ってゴメン!」
「残り十秒……!」
 数える和歌子に言い残すと、僕は松野に追いつくべく脇目も振らずに走った。
「松野っ!」
 ひとつ先の信号を挟んだ道に松野の後ろ姿がある。
 彼女は走るのをやめ、ふらふらとした足取りで歩いていた。
 その間に、僕の前方の信号が赤に変わる。車が一台横断歩道に向かってきていたが、大股で突っ切った。
 前方左斜め横から、大きな車が向かってくる音。
 僕は息を切らしながら、必死に片手を伸ばした。そして、なんとか届いた松野の肩を掴んで引き寄せる。
 ふらついていた小さな肩は、とても軽かった。
 ほんの一瞬の差だった。
――轟音。
 大きな車体が、今松野が歩を踏み出そうとしていた、細い十字路の横から飛び出してきて、僕たちの目と鼻の先を猛スピードで横切った。
 錆びかけた黄色い塗装と、うっすらと土をかぶった工事会社名のペイント、それにナンバープレート。
 写真で見たのと全く同じトラックが本当に通過して、道路は再び静かになった。残された排気の臭いがつんと鼻をつく。
 僕はよろけていた松野がしっかり地面に立つのを見届けて、手を離す。
「危なかった――、本当に、あの子は未来を……?」
 未来を予測していた? 学校の座敷わらしだと名乗った、あの和歌子という子は何者だ?
 ひとり考えていると、松野がこちらをぼうっと見上げてつぶやいた。
「加澤くん……どうして?」