「……ふぅん」

 なんだ、そういうことか。彼女もきっと、僕と同じで本を読むのが好きなんだろう。

 言葉足らずなその様子を、僕なりに補おうとしていると、彼女が「じゃあさ」と声をかけてきた。

 「私よりも本を読んでる君に、ずっと聞いてみたかったことがあるの」

 「なに?」

 急に真剣なトーンになった彼女に、僕は思わず少しだけ身構えた。
 そして、彼女が口にしたのは――

 「君は、小説を読んで得たことを、現実の人生に生かせると思う?」

 好きな作家とか、おすすめの本とか、そんな話が来ると思っていた僕は、完全に虚を突かれた。
 予想していた質問とは、ぜんぜん違った。

 彼女の問いにうまく言葉が出てこなくて、黙り込んでしまった僕を見て、彼女が笑う。

 「もしもーし? ねぇ、なにか答えてよ」

 「……それ、すごく難しい質問だよ」

 やっとの思いで、言葉を返す。
 「たしかに僕は本を読むけど、それでも簡単には答えられない。……むしろ、ずっと考えてた問題かもしれない」