そして、高校二年生の春、つまり今日、僕は放課後の教室で、この同じクラスの水野(みずの)結夏(ゆいか)に、あのことをバラされたくなかったら友達になって、と唐突に声をかけられていた。
まさか、このうるさそうなクラスメイトに見られていたとは。

「……つまり、僕がブックスタンド買ったとこ、見てたの?」

 彼女の言葉を補うように、思わずそう聞き返してしまった。

「うん。この目で見たから、間違いないよ」

 彼女はひとり勝手にこくんこくんと頷いて、得意げに続ける。

「私、君が可愛い猫のシルエットのブックスタンドを何個も買い物カゴに入れてるところ、見ちゃったんだ」

「ほう? それで?」

「ただのブックスタンドなら良かったんだよ。でも、はっきり言って、皆からクールそうに思われてる君には、ああいうファンシーな小物、まっったく、似合わないわけだ」

「たしかにね。僕は基本的に、機能的なものを好むから」

「あー、めっちゃそう見えるね」

「ちなみに、僕が気まぐれであれを買ったのは、最近読んだ本に三冊連続で猫が出てきたからだと思うよ」

そうつけ加えると、彼女は手を叩いて驚いていた。

「ええ! 本をいっぱい読んでると、そんなこともあるんだねぇ。さっすが、教室でいつもひとりで本読んでるだけあるよ」

 小説の中に猫が出てくるだけなら、珍しくはないし、それがたまたま三冊続いてもおかしくないけど、彼女があまりにも感激しているから、そこは黙っておいた。

「そっか、君から見た僕って、ひとりで寂しそうに本読んでるように見えてたんだ」

「別に悪い意味じゃないよっ。君が本を読んでいるの、前からよく見かけて気になってたんだ」

「…………なんで?」

 思わずびっくりして()くと、彼女は、にしし、と頬の片側にえくぼを作って笑った。

「私もよく読んでるんだ、本」