「でも、今日……限界だった。もう……橋場くんに、ちゃんと伝えようって。忘れられても、いいやって……」
その小さな覚悟が、胸を締めつけるほど強く感じられた。
……ああ。きっと。
僕は彼女の覚悟に、応えなくてはいけない。
いや、応えたい。
心の奥の方から気持ちが溢れ出してきて、それをことばにすることを望んだ。浮かんだのは、もしかしたら、以前読んだ本のセリフの受け売りかもしれない。僕にしては、素直すぎる語彙だったから。けど、それは紛れもなく、僕自身が選んだ言葉だった。
だから、僕は、息を吸い込んで、言った。
「――忘れないよ。
……僕は、君のことを、絶対に、忘れない」
風が吹いた。
夕暮れの空が、僕たちの間で揺れていた。
結夏は驚いたように、すこしだけ目を見開いた。
「……どうして、そんなこと、言えるの?」
「わからない。
でも――君が僕に話しかけてくれたあの日から、君の言葉も、表情も、考え方も、本の読み方ひとつ取っても、全部が残ってる。君のことを忘れるなんて、想像できないんだ。
たとえ、世界中が君を忘れても、僕だけは、君を思い出し続けるよ」
言ってしまった。世界中が忘れても。それはつまり……。僕が彼女を覚えている最後のひとりになることを、いつまでも記憶し続けることを宣言したんだって、言ってから気づいた。
無責任かもしれない。僕にだって、もう抜け落ちている大切な記憶があるのかもしれない。ちいさな違和感は、もう、確かに始まっている。
それでも。
これからどうなるかなんて、わからなかった。
けれど、それでも――言わずにはいられなかったから。
長い沈黙のあと。
結夏は、空を見上げたまま、ゆっくりと目を閉じて、
そして――とても静かに、微笑んだ。
「……ありがとう」
それは、すべてが込もった一言だった。
弱さも、喜びも、希望も、哀しみも、
全部、溶け込んだような――ちいさな、やさしい声だった。
その小さな覚悟が、胸を締めつけるほど強く感じられた。
……ああ。きっと。
僕は彼女の覚悟に、応えなくてはいけない。
いや、応えたい。
心の奥の方から気持ちが溢れ出してきて、それをことばにすることを望んだ。浮かんだのは、もしかしたら、以前読んだ本のセリフの受け売りかもしれない。僕にしては、素直すぎる語彙だったから。けど、それは紛れもなく、僕自身が選んだ言葉だった。
だから、僕は、息を吸い込んで、言った。
「――忘れないよ。
……僕は、君のことを、絶対に、忘れない」
風が吹いた。
夕暮れの空が、僕たちの間で揺れていた。
結夏は驚いたように、すこしだけ目を見開いた。
「……どうして、そんなこと、言えるの?」
「わからない。
でも――君が僕に話しかけてくれたあの日から、君の言葉も、表情も、考え方も、本の読み方ひとつ取っても、全部が残ってる。君のことを忘れるなんて、想像できないんだ。
たとえ、世界中が君を忘れても、僕だけは、君を思い出し続けるよ」
言ってしまった。世界中が忘れても。それはつまり……。僕が彼女を覚えている最後のひとりになることを、いつまでも記憶し続けることを宣言したんだって、言ってから気づいた。
無責任かもしれない。僕にだって、もう抜け落ちている大切な記憶があるのかもしれない。ちいさな違和感は、もう、確かに始まっている。
それでも。
これからどうなるかなんて、わからなかった。
けれど、それでも――言わずにはいられなかったから。
長い沈黙のあと。
結夏は、空を見上げたまま、ゆっくりと目を閉じて、
そして――とても静かに、微笑んだ。
「……ありがとう」
それは、すべてが込もった一言だった。
弱さも、喜びも、希望も、哀しみも、
全部、溶け込んだような――ちいさな、やさしい声だった。


