ちょうど一週間前、僕は学校帰りに、街のショッピングモールをふらりと訪れていた。
 このあたりでは一番大きな商業施設で、平日でも老若男女いろんな人たちでにぎわっている。
 目的はといえば――たいしたことじゃない。ブックスタンドを買いに来ただけだった。

 僕の部屋はすでに、本であふれかえっている。
 高校生の身でありながら、限界まで読みあさった結果がこれだ。
 本棚も机もいっぱいで、そろそろ置き場がない。
 いろいろ考えた末、なんとか「ブックスタンドを使えばもう少し耐えられる」という結論にたどりついた。
 きっと配置を工夫して整理すれば、まだ戦える……はず。
 そんなことを考えながら、テナントに入っていた全国チェーンの雑貨屋へ足を運んだ。

 文房具コーナーを見て回っているときだった。
 ふと、目にとまったブックスタンドに思わず立ち止まる。
 それは、尻尾をぴんと立てて、こちらを振り返る黒猫の形をしたものだった。
 シルエットだけでデザインされている、シンプルで、それでいて妙にかわいい一品。
 値札を見ると、ひとつ二百円。……安い。
 気づけば手に取っていた。心のどこかで、「機能性こそ正義」と思っていたはずなのに。

 けれど、その瞬間、理由もなく胸の奥に何かが走った。
 きっと、最近読んだ本に猫がよく出てきたからかもしれない。
 そう、きっとそれだけ――
 なのに、気づけば僕は、迷うことなくレジへと向かっていた。

 レジに並んでいるあいだに、気がつけば5個も手に抱えていた。
 ……まぁ、大した数じゃないはずだ。たぶん。