夏の箱庭、まだ見ぬ花火に君を描いた

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 山本さんと大崎くんと別れて、僕らは一緒に帰っていた。
 前に本屋に寄ったときよりも遅い時間だった。本物の田舎というものを侮ってはいけない。電車が少ないから、僕たちはギリギリの電車まで走らないといけなかった。
 結夏が電車に乗ってから話しかけてきたけど、僕は眠くなってきた。なるほど、運動不足とはこういうときに明るみになるものらしい。
 「橋場くんはお疲れみたいだね。私のジュース飲む?」
 「うん……ありがと」
 「え」
 「おいしいね、これ」
 結夏からもらったスポーツドリンクを飲んだら、急に眠くなってきて、思考もぼんやりしてきた。
そういえば、さっきエアホッケーで大崎くんを狙おうってなったとき、水野さんとよく息が合ってた。これなら世界選手権で優勝できるな。エアホッケーって世界大会あるのかな。まずは日本一かな。口元が緩む。最後の抵抗で、顔だけ水野さんの反対側に向けておこう。なんか、こういう顔、あまり見られたくないし。
 「なんか今日すごく素直……って橋場くん、おーい」という声が最後に聞こえた気がした。
 そして、これは――久しぶりの夢だな。でも、夢の中でストーリーが進むには、おそらく短すぎる。マコトとなった僕は白い廊下を歩いている。あの子の病室はどこだろう。マコトは知ってるけど、僕は知らない。でも、わかるのは、あの子の名前には、■■が入っているってこと――。はて、どの■■だっけ。でも、そんなの、決まってるじゃないか、彼女にふさわしい■■は。でも、起きたらまた名前を忘れてしまうんだろうなぁ。
 …………。
 「橋場くん、駅ついたよ」
 「ん……あ、寝ちゃってたね、僕」
 「ふふっ、いいもの見ちゃった」
 「……はぁ、寝顔を見られるなんて思ってなかった」
 「いつもは私が授業中に寝てるほうだからね」
 「自覚があるなら起きてなよ」
 「橋場くんもいつもいじわるだよね。起こしてくれればいいのに」
 「えっ、そんなつもりはないんだけどな。なんか、邪魔したら悪いかなって思っちゃうんだよ、いつも」
 「えへへっ」
でも、そうか。結夏も僕を起こさずにいてくれたのか。
 「だから今日は、寝てる橋場くんを起こさないほうがいいなぁって思って黙ってたんだよ? どう? 私ってそうやって黙ってることもできるんだよ」
 「……それ、よけいなひとこと言わなきゃ良いのに」
 「あっはは〜、照れてる〜」
 「……はぁ。でも、なんだったんだろうね、さっき四人で遊んだあの時間は」
 「ふふっ、なんだったんだろうね」
 「ほんと、水野さんは唐突なんだから」
 しかもそれの呼称が「ダブルデート」なんて。彼女はときどき言葉選びが危なっかしい。