夏の箱庭、まだ見ぬ花火に君を描いた

 ふと横を見ると、結夏も何か気づいたのか、悪い笑顔で僕にウインクして、大崎くんと山本さんの間を狙い始めた。
「あ、こら!」
「うおおおりゃあああ!!」
 山本さんが打ち返そうとしたパックを、大崎くんは声をあげながら少し大げさな動きで打ち返す。
 それからは単純だった。
 ふたりのちょうどセンターを狙うと、大崎くんが必ず山本さんより先に反射的にほぼ同じ場所に打ち返すものだから。だから僕たちがやることは簡単だった。
 最後は大崎くんと山本さんがごつんとぶつかって仲良く尻もちをついた。
 そしてゲームセット。やった、僕たちの勝ちだ。
「いてぇ……くっそーなんでなんだ、急に点がとれなくなった」大崎くんがお尻をさすりながら言った。
「おしお、アンタちょっと落ち着きなって」山本さんが手を差し出した。
 おしお?
「おしおって呼ぶなよ!」
 大崎くんは手を借りずに自分で立ち上がって、ひとりで赤くなっていた。なるほど。おしおというのは、山本さんがつけた大崎くんのニックネームらしい。
「えっ、“おしお”って、何!? その呼び方おもしろっ! 料理のお塩? さしすせそ的なやつ!?」結夏が爆笑する。
「知るか! ……いや、由来は知ってはいるけど……」
「私もおしおって呼んで良い!?」
「ダメに決まってるだろ! ――そんなことよりもう1戦だ、今度は負けねぇかなら!」
 気づけば四人で、このちいさなエアホッケーだけで白熱して何試合もやりあっていた。
「くっそーなぜなんだ! 真ん中には気をつけたのに」
「アンタはまっすぐに動きすぎなの! あっ、結夏、ちょっと一回だけペア交代しようよ」
 山本さんがふと提案する。
「ん、私とはっすーでペア組むってこと?」
 山本さんは、違う違う、と手を顔の前で振った。
「アタシとはっしー、結夏と大崎のペアってこと」
「ええっ!?」
 結夏はおもいっきり両手を横に広げて頬を膨らませる。
「ダメに決まってるじゃん! 私たち、ずっとこの組み合わせで良くない?」
「もう4ゲームしてるし、一戦くらいならだいじょうぶだって」
「おい俺抜きで勝手にすすめないでくれよ」不服そうな大崎くん。
 山本さんは間髪いれずにびしっと言い放つ。
「交代しなかったら明日から学校でおしおって呼ぶから」
「はぁーっ、ふざけんなっ」
 大崎くんは赤くなりつつ抗議する。
「ちなみに、こいつの昔のあだ名ね」
「それにしても、なんであだ名が“おしお”なの?」
 僕もまた気になってしまった。
「橋場まで! それはいいだろ、もう」
 大崎くんはブンブンと手を横に振っている。
「わかったら交代ね」