夏の箱庭、まだ見ぬ花火に君を描いた

 結夏たちが立ち止まったのは、エアホッケーのゲーム台だった。
「ほら橋場くんなにしてるの? ペアでやろうよ」
「ああ。でも、こういうのは初めてで、やり方がわからないんだ。ボール……?を打ち返せばいいの?」
 僕が首をかしげていると、結夏が手に握ったラケット?を見せてきた。
「パックっていうんだよ。ちなみにいま私が手に持ってる打ち返すやつは、ラケットじゃなくてマレットね」
 僕の疑問を先読みしたような結夏だった。
 なんだか、かなりペースを掴まれているみたいだ。
「私、橋場くんのことは、皆より少しだけわかってるつもりだよ」
「へ?」
「ほら、私の隣に立って。右は任せたから」
「う、うん」
 そして結夏とホッケー台の横に並ぶ。狭くて、お互いにちょっと手が触れてしまいそうだ。
「ちなみに、ここの台には、ちょっとしたウワサがあるんだってさ〜」
 山本さんがふとつぶやいた。
「なんと、この台で男女四人で対戦すると――」
「こらっ」
 結夏が山本さんのことばを静かに、だけどとっさにさえぎった。
「え〜、教えちゃだめ?」
「ダメに決まってるじゃん」
「なんだよ、ウワサって。もしかして、こわいやつ?」と大崎くんが首をかしげた。
「ぶわぁーか」と山本さん。
 ばか、と聞こえた。今度は山本さんがツンとしたようすで大崎くんの腕を肘でこづいた。
 結夏と山本さんの意図はよく伝わってこないけど、僕はふとある物語のことを思い出す。
「でも本とか映画でよくあるよね、そういう、ちょっとした願掛けみたいなの。『スタンド・バイ・ミー』のコインとか。あれも四人の話だったね。つまり――仲間だ、的な」
「……ふぅーん、『仲間』かぁ。でも、『仲間』なのかぁ……。――この軟弱者っ!」
 見間違いでなければ、山本さんの腕がヒュンとうなって、打ち返されたパックが僕の横をかすめて吸い込まれてしまった。
 そのままポイントが入って点数のパネルが光った。
「ちょっと、いつの間にゲーム始まってたのさ」
「へへん、先手必勝だってーの」
 それから山本さんはそのワンゲームが終わるまでヒュンヒュン言わせながら僕を狙い続けた。理不尽な。
「あの〜、俺にも打たせてくれな?」
 その隣では大崎くんが苦笑いしていた。
 そのゲームは僕と結夏のストレート負けだった。すぐに次のゲームが始まる。
「うっしゃ俺に任せろ!」
 どうやら大崎くんは、山本さんにいいところを見せようとしているみたいだった。
 そんな大崎くんには、ちょっと単細胞というか、直線的なくせが見えた。
 僕が打ち返したパックが、はじめて大崎くんの横をかすめていく。
 あれ、これはもしかしたら、いけるかも。