結夏が僕を気に入っている?
「どういうこと?」
 山本さんは僕のつぶやきには何も返さずに言葉を続けた。
「はっしーはさ、結夏と仲良いの?」
「……どうなんだろう」
「えー、何だその答えは」
「と言われても。何せ、水野さんと話すようになったきっかけがきっかけだからさ。僕は彼女に弱みを握られてるっていうか」
「弱みって……こりゃまた予想外の話が飛び出したわね。なに、結夏に脅されでもしたの?」
「そうだね。秘密をばらされなくなかったら友達になってね。って。でも、別に言いふらされたところで痛くも痒くもない内容だし……」
「なんだそりゃ」
 それから山本さんは何かに気づいたようにつぶやく。
「ん、それってつまり、はっしーは結夏と自主的に仲良くしてるってこと……」
「さぁね」
「あ、ごまかした」
「君こそ、水野さんの親友的な人? よく教室で話してるよね」
 僕が訊き返すと、山本さんはバツが悪そうに肩をすくめた。
「親友だと胸を張って言いたいとこだけど。――実はアタシ、結夏と話すようになってから1ヶ月くらい」
「え。1ヶ月て……クラス替えからってことか」
 山本さんの口ぶりからして、もっとつきあいが長いのかと思っていた。友達として過ごしている期間が、僕とあまり変わらないじゃないか。
「そ。だからあの子のことで、どうしても納得いかないとこがあってさぁ」
「納得がいかない?」
「そそ。結夏ってさ、どういうわけか影か薄いし、ああ見えて友達全然いないみたいなんだよね」
「……影が薄い?水野さんって、じつは目立たない方なの?」
 僕が他人に興味がなさすぎて気づかないだけで、このクラスは奇人変人の巣窟ってことか? この山本さんだってけっこう独特の雰囲気をまとってる気がするし。
 だけど、山本さんは首を思いっきり横に振った。
 「まっさか!!普通だったら人目を引くよ引くよ、そりゃもう結夏の、あの見た目と性格で目立たないわけがない」
「鼻息荒いよ」
「失礼! でも、はっしーと結夏が最近話してるのとか、この前ふたりで放課後にどこか行ってたのとか、ふつうは皆もっと話題にするはずなんだよ。なのに他の皆はさ、女子も男子も、結夏の浮いた話に興味ないみたいに、ずっと平然として流してるし。いくらなんでもおかしいでしょ!」
「そうかな」
「普通はそうなの!」