私には普通の恋愛が何なのか分からない。
わたしの名前が│明野瑠衣《あけのるい》で、隣りにいる彼女の名前が│桜田瑠璃《さくらだるり》であることから一部でルイルリカップルだなんて呼ばれているけど、それはあたしたちがふたりとも女の子だからだよね。同性愛のレズビアンだから、特異な目で見られてる。それだけなんだ。
別に悪口を言われてるわけじゃない。陰口もない……と思う。たぶん。寧ろ応援してくれたり、相談に乗ってくれる人の方が多いと思う。周りの優しさには本当に感謝してるんだ。だけど、だけどね。たぶん優しいだけで理解はされてないと思う。普通の男と女のラブゲームなら理解してくれる人が、例えば友人とかでいるんだろうけど、だけど私達の関係を本当に理解してくれる人はいない。ううん。もちろん必要だとは思ってないよ。私と瑠璃が幸せならそれ以上のことはないんだから。でも、その噂を聞いたときに私は。その人なら理解してくれるかもしれない。そう思えたんだ。
※ ※ ※
その噂はカップルのみが入れる観覧車の話。この学校の人なら誰でも知ってるんじゃないかな。だって一番目立つし。不自然で、必然的に存在しているあの観覧車。しかも乗車条件が同性カップルのみなんだって。ホントかな。なんか怖いね。良くない噂だったら嫌だな。でも興味はあるな。そんな感じだった。だから瑠璃に
「ねえ。あの噂の観覧車。今度行ってみない？」
って言われなければ行かなかったと思う。問題になったりとか、なにか危険な目に遭う可能性をどうしても考えちゃったからね。学校の敷地ないと言っても、うちの学校増改築に建設、建築、崩壊、放置を繰り返して迷路みたいになってるから。危ないところがないとは言えないもの。
「観覧車って、あの噂の？」
「そう。あたしたちにピッタリじゃない」
「そうかもしれないけど……怖くない？」
「怖い？ あら、瑠衣は意外と臆病さんなのね。わたしは寧ろわくわくしているわ。だって面白そうじゃない。楽しそうじゃないの！」
「瑠璃らしいね」
ふふん、と彼女は自慢げであった。私はどこか慎重に行動しがちというか、怖かったら手を出さない真面目な生き方してきたから、だからこそ瑠璃のそんな性格に惹かれたのかもしれないと思っていたの。羨ましいのかな。それもあるかも。まあ、それも含めてかわいいって思っちゃうから交際してるんだけど。
観覧車には放課後に向かうことにした。今日は互いの空き講が重ならなかったから。でもあんまり遅くなりたくないという私の意見も瑠璃は尊重してくれたので、『見えるけどたどり着けない』が事実で、今日中が無理そうならまた後日にしよう。そう約束したの。
そして放課後。
早速観覧車の見える方角へ向けて、二人手を繋いで歩きだした。道を曲がり、くねり、のぼり、野を超え、川を越え、ワンコインランドリーを通過し、橋を渡って、道なき道を未知なる方へと進み、十数分。一体どこまで行くんだろうと思っていた頃、それは目の前にあったの。着いたというより、それが目の前にあったとする表現が正しい気がする。
観覧車は目の前に、巨大に鎮座していた。
「すっご……」
「ね。でかいね……こりゃ、すごいや」
首を傾けて、顎を突き出して見上げても見切れないほどでかい。一体全長はどれほどなのだろうね。
「あっ、お金いるのかな？ わたしあんまり持ってないや」
「いいよ、瑠璃。私持ってるから」
「ありがとう。今度返すね」
何かあったら困ると思って多めに持ってきて良かった。慎重な性格が功を奏した結果だ。
観覧車の入り口に来ると、人は誰もいなかった。中には何人かすでに乗車しているようで、どうやらお金がかかるシステムではないようだった。
ご自由にお楽しみください。
クロノ・ジョーカー 様より
看板が立っていた。一見すると文字のない白い看板なのだが、書かれた指示通りに二人で手を探りながら、そっと手を繋ぐとそこには『ご自由にお楽しみください』と文字が浮かび上がるように書かれていた。人の名前は観覧車の作者だろうか。ほんと、不思議なところだな。
「じゃあ、いこっか」
「うん」
握った手を少し強くして、そしたら握り返してくれて。私達は一周の旅へと足を踏み入れたのだった。
わたしの名前が│明野瑠衣《あけのるい》で、隣りにいる彼女の名前が│桜田瑠璃《さくらだるり》であることから一部でルイルリカップルだなんて呼ばれているけど、それはあたしたちがふたりとも女の子だからだよね。同性愛のレズビアンだから、特異な目で見られてる。それだけなんだ。
別に悪口を言われてるわけじゃない。陰口もない……と思う。たぶん。寧ろ応援してくれたり、相談に乗ってくれる人の方が多いと思う。周りの優しさには本当に感謝してるんだ。だけど、だけどね。たぶん優しいだけで理解はされてないと思う。普通の男と女のラブゲームなら理解してくれる人が、例えば友人とかでいるんだろうけど、だけど私達の関係を本当に理解してくれる人はいない。ううん。もちろん必要だとは思ってないよ。私と瑠璃が幸せならそれ以上のことはないんだから。でも、その噂を聞いたときに私は。その人なら理解してくれるかもしれない。そう思えたんだ。
※ ※ ※
その噂はカップルのみが入れる観覧車の話。この学校の人なら誰でも知ってるんじゃないかな。だって一番目立つし。不自然で、必然的に存在しているあの観覧車。しかも乗車条件が同性カップルのみなんだって。ホントかな。なんか怖いね。良くない噂だったら嫌だな。でも興味はあるな。そんな感じだった。だから瑠璃に
「ねえ。あの噂の観覧車。今度行ってみない？」
って言われなければ行かなかったと思う。問題になったりとか、なにか危険な目に遭う可能性をどうしても考えちゃったからね。学校の敷地ないと言っても、うちの学校増改築に建設、建築、崩壊、放置を繰り返して迷路みたいになってるから。危ないところがないとは言えないもの。
「観覧車って、あの噂の？」
「そう。あたしたちにピッタリじゃない」
「そうかもしれないけど……怖くない？」
「怖い？ あら、瑠衣は意外と臆病さんなのね。わたしは寧ろわくわくしているわ。だって面白そうじゃない。楽しそうじゃないの！」
「瑠璃らしいね」
ふふん、と彼女は自慢げであった。私はどこか慎重に行動しがちというか、怖かったら手を出さない真面目な生き方してきたから、だからこそ瑠璃のそんな性格に惹かれたのかもしれないと思っていたの。羨ましいのかな。それもあるかも。まあ、それも含めてかわいいって思っちゃうから交際してるんだけど。
観覧車には放課後に向かうことにした。今日は互いの空き講が重ならなかったから。でもあんまり遅くなりたくないという私の意見も瑠璃は尊重してくれたので、『見えるけどたどり着けない』が事実で、今日中が無理そうならまた後日にしよう。そう約束したの。
そして放課後。
早速観覧車の見える方角へ向けて、二人手を繋いで歩きだした。道を曲がり、くねり、のぼり、野を超え、川を越え、ワンコインランドリーを通過し、橋を渡って、道なき道を未知なる方へと進み、十数分。一体どこまで行くんだろうと思っていた頃、それは目の前にあったの。着いたというより、それが目の前にあったとする表現が正しい気がする。
観覧車は目の前に、巨大に鎮座していた。
「すっご……」
「ね。でかいね……こりゃ、すごいや」
首を傾けて、顎を突き出して見上げても見切れないほどでかい。一体全長はどれほどなのだろうね。
「あっ、お金いるのかな？ わたしあんまり持ってないや」
「いいよ、瑠璃。私持ってるから」
「ありがとう。今度返すね」
何かあったら困ると思って多めに持ってきて良かった。慎重な性格が功を奏した結果だ。
観覧車の入り口に来ると、人は誰もいなかった。中には何人かすでに乗車しているようで、どうやらお金がかかるシステムではないようだった。
ご自由にお楽しみください。
クロノ・ジョーカー 様より
看板が立っていた。一見すると文字のない白い看板なのだが、書かれた指示通りに二人で手を探りながら、そっと手を繋ぐとそこには『ご自由にお楽しみください』と文字が浮かび上がるように書かれていた。人の名前は観覧車の作者だろうか。ほんと、不思議なところだな。
「じゃあ、いこっか」
「うん」
握った手を少し強くして、そしたら握り返してくれて。私達は一周の旅へと足を踏み入れたのだった。
