「はい、ヘイ様。わたあめです」

「ああ。ありがとうな」


 世界消滅の危機の翌日。崖の端祭り当日。

 
 私とユメと姫様、レイに味楽来玖瑠実、枝桜樹カップルにルイルリカップルを携えての大所帯で縁日を回っていた。先程ユメがわたあめをとても物珍しそうにして見ていたので買ったのだが、なんと一人で三本も頼みやがった。一本目を絶賛消費中なのだが、自分ではあまり食べず、私に与えてばかり。どうやらその姿を眺めることのほうが気に入ったようであった。なんなんだかね、ほんと。まるで小さな子どもが出来たようだなと、らしくもないことを思ってしまう。私としては前方を行く美少女二人のルイルリカップルを眺めていたほうが、眼福であり至高なのだが。あまりよそ見するとユメがヤキモチ焼いて、それに腹を立てたレイが私を殺そうとするから、なかなか拝んでばかりもいられない。やれやれだぜ。


 あれから結局どうなったかというと、世界は元どおり並行線に仲良く並ぶことに成功し、二つの世界が重なるという事象は回避された。現世で起きていた事で説明すると、チュウカの回転蹴りと同時に私は輝石を投げた。これを触媒としてユメが空間移動し、レイとキスをすることで百合の光を生み出したって説明になる。

 
 世界線が重なるということはつまり、運命や結末が等しくなるということ。何かを変えても、結局同じ結末になるのでは何度繰り返しても結果は同じく世界線の重複に行き着いてしまう。


 そこで大切なのはそれを第三者、つまりこの世界の住人が目撃すること。それは直接見えなくても構わない。《《なにか起きたのだという事象そのもの》》を視認できればそれでいいのだ。漆黒という保険も作ったし、逃げ惑う人の中には動画撮影しているやつもいた。十分だった。ここで言う事象はもちろん百合。キスの理由も、もちろんそれが百合になるからである。

 
 第三者が目撃することでそれは当事者の中の出来事から現実における事実にランクをあげる。そう、問題だったのは百合がどこか空想の世界の話となってしまい、観覧車が現実の百合さえもファンタジー化したこと。現実の一部が空想化したことで世界そのものの存在が不明瞭になった。そこで世界は他世界線を重ねることでその存在を安定化させようとしたのではないかと、おおよそ推測している。これには超能力者たちとも意見が一致しており、暫定的な理由付けとしている。


 まあ、正直言葉で説明しようとするとこう難しいのだ。なにせ百合絡みだし。百合は一言で説明不可能だし。簡単に敢えて言うなら百合から始まった不可思議は百合の不可思議によって救われたって感じかな。まあ、なんとなくで察してくれたまえ。ふはは。


「はいヘイ様。わたあめです……ああっ! あれはなんですか? とてもきれいです!!」
 

 今度はりんご飴を見つけた。頼むから今度は一本にしてくれよ。あまり食べるとこのあと控えている全体発表のサーカスがあるんだから。ほんと、プレッシャーで胃が痛いぜ。



 
 異世界転生者来訪編 fin