「おかえりなさい、ヨウヘイさん」
「ヘイ様っ! ご無事ですか!?」
「…………あ、ああ。大丈夫だ。少し疲れたけどな」
「時間がありません。申し訳ありませんが、あと飛べるのはおそらく一回が限度でしょう」
「そうか」
それは都合がいい。もう、あまり何回も飛びたくない。
「ユメ」
「はい、ヘイ様」
「私は自害します。もしもそれが何らかの不慮で叶わない時、私を殺してくれますか」
「……! ヘイ様、何をおっしゃられているのか……ヘイ様……?」
「全ては観覧車が原因なんだ。あれは私の願いだからな。だから、私が死ねば願いを叶える必要もなくなり、世界は元に戻る。悲しい可能性の世界線も生まれない。全て、もとどおりだ」
そう。味楽来玖瑠実に言われた私の問題。
最大にして最高到達点としての私の問題。あの観覧車はそういうモノ。一番の不可思議だ。そうさ。それが無くなれば、何も起きることなんてなかったんだ。人間関係が嫌いで面倒ならば。多様性に不寛容な世間や世界が嫌いで嫌悪していて憎むのならば。自分が消えていなくなればよかったんだ。自分がいなくなれば、全て世の中はもとどおり。そうだ、最初からそうすればよかったんだ。
私はこれまでの人生、ずっと世界のすべてが敵だと思って生きてきた。
オタク趣味があってもそれは隠すことを強いられてきたのに、いつの間にかクールジャパンとかで持て囃されるようになり、掌を返すように認めるようになった。ホモやレズは馬鹿にされてきたのに、非生産的だとか言われてきたのに、オカマだとかが嫌悪されてきた世の中だったのに、急に掌を返すようにダイバーシティだ多様性だなんだかんだと認め始めた。認めることを強いるようになり始めた。それが正しいのだと。今までのことは時代のせいにして。これからは多様性を認めることが常識で、当たり前で正しいよ、って。
笑えるよな。
今まで世界すべてが敵だったのに、ある日から私達は、あなたを仲間としますよなんて。そんなの笑えるよな。やめてほしいよな。昔のことはなかったことにして、未来のために、より良い現在のために生きましょうだなんて。冗談だよな。過去があって今が作られている自分にとってそれは裏切りだった。人生の全否定だった。生きてきた意味はない。これまで耐えてきたのは時代のせいだ、環境のせいだと。これからが良ければいいじゃないかと言うのがどうにも駄目だった。
観覧車が見えるようになったのはすべてを諦めたそんな高校入学時である。
それは奇跡に近いものだった。百合が好きで、それが否定されるのが嫌で、なにか商業的に扱われるのも違くて、自分の中に答えが出ていなかったときにそれは奇跡のように現れた。百合の聖地であり、百合以外の立ち入りを禁じ、干渉することすら不可能で、覗けるのはほんの一部の顚末のみ。それがどれだけ自分にとって都合が良かったか。百合を楽しみたい気持ちがあるも、しかし男として関わってはいけないというジレンマも、男と女が交際して普通という世の中の圧力から逃げられる場所であることもすべてを叶えてくれた。奇跡だった。幸福そのものだったんだ。
それが否定されたのだ。
私に選択肢はない。選んでいるつもりで、実はずっと選ばされていただけ。進む道をいくつも見せられて、実際に歩けるのは一本しかなかったのが真実だ。世界か私に死を選択せよというのならば、これまでその選択に従ってきた私である。願いを叶えてくれてありがとうと言いながら死んでいこう。世界にありがとうと、こんな私に、こんなたった一人の人間のために願いを叶えてくれて、生きる場所を与えてくれてありがとうと言いながら死んでいこう。自分の意志で。世界の選択肢を選択して死んでいくのだ。
。
……。
…………っ。
…………。
……ザッ。
…………チャリン……。
私の取り出したナイフは蹴り飛ばされた。
「それは違います! へいさまっ!」
「ユメ……」
「ヘイ様……黒川ヨウヘイ! 意味がないなんてことは無い! 全部を一人で背負い込むな、くそったれがぁ!」
ゆ、ユメ……?
「いいですか、このくそやろう! あなたのキセキがなければ私は、夢野根底は今自殺しようとしたくそやろうに出会うこともできなかった! この世界に来ることもできなかった! タイムトラベルして、あなたに会えたのは、ヨウヘイ様のおかげなのですよ! だから、だからヘイ様……ヘイ様…………どうか…………どうか、だから早まらないで……」
おねがいだから。
「ヘイ様っ! ご無事ですか!?」
「…………あ、ああ。大丈夫だ。少し疲れたけどな」
「時間がありません。申し訳ありませんが、あと飛べるのはおそらく一回が限度でしょう」
「そうか」
それは都合がいい。もう、あまり何回も飛びたくない。
「ユメ」
「はい、ヘイ様」
「私は自害します。もしもそれが何らかの不慮で叶わない時、私を殺してくれますか」
「……! ヘイ様、何をおっしゃられているのか……ヘイ様……?」
「全ては観覧車が原因なんだ。あれは私の願いだからな。だから、私が死ねば願いを叶える必要もなくなり、世界は元に戻る。悲しい可能性の世界線も生まれない。全て、もとどおりだ」
そう。味楽来玖瑠実に言われた私の問題。
最大にして最高到達点としての私の問題。あの観覧車はそういうモノ。一番の不可思議だ。そうさ。それが無くなれば、何も起きることなんてなかったんだ。人間関係が嫌いで面倒ならば。多様性に不寛容な世間や世界が嫌いで嫌悪していて憎むのならば。自分が消えていなくなればよかったんだ。自分がいなくなれば、全て世の中はもとどおり。そうだ、最初からそうすればよかったんだ。
私はこれまでの人生、ずっと世界のすべてが敵だと思って生きてきた。
オタク趣味があってもそれは隠すことを強いられてきたのに、いつの間にかクールジャパンとかで持て囃されるようになり、掌を返すように認めるようになった。ホモやレズは馬鹿にされてきたのに、非生産的だとか言われてきたのに、オカマだとかが嫌悪されてきた世の中だったのに、急に掌を返すようにダイバーシティだ多様性だなんだかんだと認め始めた。認めることを強いるようになり始めた。それが正しいのだと。今までのことは時代のせいにして。これからは多様性を認めることが常識で、当たり前で正しいよ、って。
笑えるよな。
今まで世界すべてが敵だったのに、ある日から私達は、あなたを仲間としますよなんて。そんなの笑えるよな。やめてほしいよな。昔のことはなかったことにして、未来のために、より良い現在のために生きましょうだなんて。冗談だよな。過去があって今が作られている自分にとってそれは裏切りだった。人生の全否定だった。生きてきた意味はない。これまで耐えてきたのは時代のせいだ、環境のせいだと。これからが良ければいいじゃないかと言うのがどうにも駄目だった。
観覧車が見えるようになったのはすべてを諦めたそんな高校入学時である。
それは奇跡に近いものだった。百合が好きで、それが否定されるのが嫌で、なにか商業的に扱われるのも違くて、自分の中に答えが出ていなかったときにそれは奇跡のように現れた。百合の聖地であり、百合以外の立ち入りを禁じ、干渉することすら不可能で、覗けるのはほんの一部の顚末のみ。それがどれだけ自分にとって都合が良かったか。百合を楽しみたい気持ちがあるも、しかし男として関わってはいけないというジレンマも、男と女が交際して普通という世の中の圧力から逃げられる場所であることもすべてを叶えてくれた。奇跡だった。幸福そのものだったんだ。
それが否定されたのだ。
私に選択肢はない。選んでいるつもりで、実はずっと選ばされていただけ。進む道をいくつも見せられて、実際に歩けるのは一本しかなかったのが真実だ。世界か私に死を選択せよというのならば、これまでその選択に従ってきた私である。願いを叶えてくれてありがとうと言いながら死んでいこう。世界にありがとうと、こんな私に、こんなたった一人の人間のために願いを叶えてくれて、生きる場所を与えてくれてありがとうと言いながら死んでいこう。自分の意志で。世界の選択肢を選択して死んでいくのだ。
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……。
…………っ。
…………。
……ザッ。
…………チャリン……。
私の取り出したナイフは蹴り飛ばされた。
「それは違います! へいさまっ!」
「ユメ……」
「ヘイ様……黒川ヨウヘイ! 意味がないなんてことは無い! 全部を一人で背負い込むな、くそったれがぁ!」
ゆ、ユメ……?
「いいですか、このくそやろう! あなたのキセキがなければ私は、夢野根底は今自殺しようとしたくそやろうに出会うこともできなかった! この世界に来ることもできなかった! タイムトラベルして、あなたに会えたのは、ヨウヘイ様のおかげなのですよ! だから、だからヘイ様……ヘイ様…………どうか…………どうか、だから早まらないで……」
おねがいだから。