10-1

 超能力者よりも、未来人よりも、私はまずはじめに宇宙人だと自称する人物のところへ向かった。何だか記憶があべこべになっている気がするが、おそらく気のせいだろう。謎や不可思議を解明するのが我が秘密結社同好会の目的であり、存在理由である。他の不可思議が気になる方はそちらの活躍も見ると、この不可思議への理解が深まるかもしれない。……他の不可思議?




※ ※ ※




  繰り返し、繰り返す。


 何度だって繰り返す。同じように見えて、わずかにズレた世界。そう。これは違う世界。繰り返し繰り返して世界線を少しずつづらしていけば、やがて大きな世界線移動になる。まったく異なる可能性が生まれる。それに賭けるしかない。


「愚かね、地球の生命体は」


 これで2回目。

 エデン・レイ。彼女の言葉を聞いた回数。あと何回聞くことになるのだろう。


「姫様! 早く撤退を! お下がりください、危険です!」

「……ヨウヘイ」

「はい、姫様。ここです。私はここにいます」


 硝煙や鉄の焦げる匂いも既に感じなくなり、敵も味方も判別がつかなくなってきた。五感を犠牲にして使う奥義もすでに五発放っている。おかげで最後の視力も尽きてきたようで、辺りが薄暗い。声も出ているか怪しい。聴力も僅かだ。
 

「……ごめんね」
 
「ーーっ……! 姫様。丈夫ですよ。私がここにいますから」

「……分かった。あとはよろしくね」

「はい……。姫様」
 
「これで頼りのお姫様がお眠りね」

「……エデン・レイ……!」

「ヘイ様! 下がって」


 宙から無動作で放たれた爆撃を(すんで)のところで夢野に助けられた。シールドを張って防いだようだ。

「ありがとう。夢野、姫様を」 

「……御意に」


 冷たくなった身体を夢野に託し、すぐに下がっていく彼女を見送った。


「この地球(ほし)も、もう終わりね」

「そりゃ、あれだけ核撃ったしな。当然だろ。おかげでさっきから地響きと熱がすごい」

「他はほとんど死んだぞ。おまえはよく生きているな」

「まあね。色々とバフ掛けてもらってるから。……二人のお姫様に」


 背の二倍もの刀身のある刀を召喚、抜刀。これも夢野の能力の一つ。彼女の恩恵だ。思いが詰まっている。感情の一撃にしてやる。


「人間甘く見るなよ……。最低でも道連れにする……!」

「良かろう。来るが良い」


 武器の刀身は電子的な青白い光を帯び始め、それを地に叩きつけて勢いつけて宙へ飛翔。空浮かぶ一人の少女へ向かっていく。会敵したその刹那の光が、二人の姿を消し去った。跡には爆音と爆風のみが残った。








「……戻った」

「大丈夫ですか、黒川さん!」

「あっ、ああ。済まないが、今はいつの時代の何時だ?」

「大丈夫です。今の世界はあなたのおっしゃる元の世界です。α世界と名付けた世界です。しっかり! ヨウヘイさん!」 


 仮のタイムトラベルとはいえ、とてつもない既視感だった。まだ胸がぞわぞわしている。剣の感触が、姫様の死体の重さが、今も残っているかのような気がする。わかっている。あれは幻。いつかあった世界の幻だ。


「少年が、次のレイさんの分身と戦闘をはじめました。時間がありません。何がありましたか?」

「あ、ああ。宇宙人と出会う選択をしたが、他の二人には会わなかった。そうしたら、世界が滅亡の危機になり、姫が亡くなって、私が剣を持って、それでーー」

「ヨウヘイさん! しっかりしてください! あなたが体験したのは過去の幻想です。仮の世界で、現実ではありません。いいですか、チュウカの少年がエデン・レイさん本体と会敵したときに生じるエネルギーが世界の最終決定になります。それまでの間、分身が消失すると同時に放たれたエネルギーをもとにタイムトラベルを繰り返すしかありません。最終決定エネルギーの前に、世界が消えて亡くならない方法を見つけるのがあなたの使命です! ヨウヘイさん! おねがいですから、しっかり!」

「あ、ああ。大丈夫。少し混乱してしまった。ありがとう。記憶も元に戻ってきた。すまない」

「ヘイ様! 申し訳ありません、私は飛べませんでした。私が仮のタイムトラベルするには試行回数を要するようです……残り回数は?」

「残りは三回が限度ですが……いや、それならレイさんに頼んで回数を増やしてもらいます。長期戦になるかもしれません。ああ、大丈夫ですか、ヨウヘイさん」

「私は大丈夫です。所詮は巻き込まれていく私自身のこと。何度繰り返しても、全然違うことが起きても私は私です」

「ユメもがんばります!」

「ああ、よろしく頼む。たぶん、一人だと飲み込まれておしまいだ。冷静になれる時間が必要なのに。時間そのものがぐちゃぐちゃで、正常に流れないのが一番困るな。よし、もう一度!」


 途端、レイの分身が一体チュウカの大剣によって倒された。その姿が欠片となって消えると同時に、私は再び光に包まれてタイムトラベルを開始するのであった。