この話を受けたとき、私は相手が超能力者といえども、一人の人間なのだなということを再認識させられ、私は自らを(いまし)めた。なぜならば、彼が超能力者だと自称し、それを証明且つ信用に値したため、何か特別な色眼鏡でその人間を捉えて見てしまっていたからである。彼個人としてよりその属性ーーつまり超能力者としてしか見ていなかった。しかし彼とて一人の人間。恋だってするし、悩みもする。恋いに焦がれたり、落ちたり、ときめいたりするのだ。恋愛に悩み、誰かに相談しようというのは、そう、なんというか可愛いではないか。いや、自分が言えた道理でも義理でもなく、上から話すような経験もそのような年齢にも達していないのは事実この上ないが、しかしどうだろう。これはいいかもしれないと思ったのも事実なのである。最近何かと時間やら空間やらを飛びまわって忙しかったことだし、小休止にはちょうどいいかもしれないと思ったのだ。結局はノロケ話でした、とかでも構わない。それもいい。むしろいい。話を聞いてニヤニヤしてやろうではないか。小脇を肘でつついてやろうではないか。他人の情事解決は、謎・秘密・不可思議の次にくる秘密結社同好会の得意事案だからな。



※ ※ ※



 待ち合わせはいつものプールサイドでは無く、珍しく銭湯であった。通いし市立崖の端商業兼桜山の丘ないし市営図書施設併設高等学校の敷地内には観覧車や市民プールや図書館の他に銭湯もある。普通の古き良き昔ながらの銭湯。誰もが利用できる。学生も、市民も、市長も、隣の人も、上の階の人も、誰でも。


 銭湯の入り口で枝桜氏と待ち合わせ、そのまま入湯して命を洗濯し、ケロリンしてから湯船で体調と体温をを整え、着替えて暖簾をくぐり、憩い場で二人揃ってコーヒー牛乳を飲み干していた。


 本題はここからである。


「黒川さん、あちらの方が見えますか」

「あちら、というと?」


 二本目の牛乳瓶を傾けている時に、彼は話しかけてきたので、目線だけでその相手を探し始める。


「あの一番奥のテーブルの、奥側前から二番目です」

「ああ、あの女の子のテーブル……あっ」


 ……誰だ?


「ですから、手前から二番目のショートの…………」


 ショートヘアーの子はたしかに一人だけ。女の子四人グループの中でもとびっきりの可愛さで、美人よりも可愛らしい笑顔の似合う子だ。小さなえくぼがチャームポイントか、笑うたびに少し見える。まるでわたがしのようにまるくてあまーいふわふわとした香りのしそうな美少ーー。

「男の子です」

 
 え?


「彼はあのような中性な方ですが、男性です」


 いや、え? 


 え、あの手前から二番目の、丸い瞳をややうるませてキラキラさせながら、その少し長い自然なまつげが美しく、ふるふると揺れそうで触るとさらりと気持ちの良い白い肌をしたあの美少じyーー。

「男です」


 ん? ん?


 あの手前から二番目の、華奢な体を謙虚に寄せて、慎ましい胸に手を当てて清純な性格であろうあの彼jーー。


「男です。イツキさんは男の子なんです。そして、先日お話しました、お相手というのがーー」


 私は必死に口を抑えて言う。


「(あの子!? あの男の娘!?!?)」

「(漢字を間違えておりませんか、黒川さん。彼は男の子です)」

「(ああ……失敬。つい癖が。悪い癖です)」

「(クセ?)」

「(…………変換ミスってことにしておいてください。いや、それよりも)」

「(ええ。私の想い人は彼、髙山(いつき)さんです)」



 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。


 おい、ラブコメの神様。神様よ。神様よーい。

 
 何を、なぁんにを考えているんだ? 八百万の神は神無月に集まって人々の縁談話を取り決めていると聞いたことがあったが、いったい何を考えてるんだよ? まったく何を相談しているんだい? ええ? どうして女の子と女の子だったり男の子と男の娘……子だったりするんだ? なんで、こんなにも。


 潜在的だった多様な性が顕著に見られるようになった昨今とはいえ。とはいえですよ神様。特殊事例多すぎません? 私の周りだけですか、そうですか。


 私の神への疑問と総ツッコミを空虚な宙へ向けてひとりである程度行うと、私は落ち着くために三本目を一気飲みした。


 ゴクゴク…………くはっ。

「ちょっと、そろそろ出ましょう。いろいろとわかりましたので」