この平和な世界線にあの巨大観覧車はない。しかし、アジトもしくはそれに類するものならあるかもしれないとユメは言う。今の私にはてんでわからないが、超能力者のユメなら分かるかもしれない。痕跡を探すぐらいであれば、できるのではないかということだった。
私達二人は学園の敷地内に戻った。
姫様の部屋にお邪魔し、その直後だったので辺りは夕暮れを過ぎて夜闇に包まれていた。自動販売機や街灯、建物の灯りがちらちらと散らばっている。夜の学園は全体的に暗い。鬱蒼とした森のように暗いところもあれば、安心するような暖かな光が溢れている場所もある。人気はなく、寮に住む敷地内の学生が外出を厳しく制限させられていることがわかる。私とユメは闇に紛れながら進み、場所を探った。まるで盗賊のように。さながら秘密組織の一員のように。
「お待ち下さい」
ユメが声を潜めて言う。
「あったのか」
私も合わせて会話する。
「おそらくどこか、この辺に地下へ続く場所があるのでは無いかと思います」
「探そう」
「はい」
地下への入り口。秘密扉。ベンチの裏。街路樹の下。芝生の中。マンホール、側溝の切れ目。どれも薄暗く、輪郭さえはっきりとは見えにくい。暗視に慣れてきてはいたが、それでも難しい。普段見落としているところ。普段見ているところ。見ているつもりで見ていないところ。
……あった。
それは轟々と音を立て、毫光と明るい四角の白い箱。値段と商品サンプルが照らさており、あったか〜いとつめた〜いが双方列で別れて販売されている。
その下。
小銭でも落としたかのような、はたまた卑しく銭を稼ごうとしているようにしか見えないその格好は、正しく求めていた正解であった。自動販売機の下にその入り口はあったのである。
「ユメ!」
「はい……たしかにこれですね。よくぞ見つけましたね、ヘイ様。あそこにある、あの鉄の棒のようなものが入り口の蓋を開ける取手だと思われます」
二人で自動販売機を動かす。
……びくともしない。
ユメになんとかしてもらう。
……なんとかしてもらった。
無事に自動販売機をどかし、その入り口を見つけることができた私達は早速その重い鉄扉を開けて、地下へと続く階段を慎重に降り始めたのだった。
※ ※ ※
「ここは……」
そこは天空だった。
見下ろし階段の続く先は雲の上。見上げれば先程まで下ってきた石の階段が続いており、ユメが後ろからついてきている。階段に手すりや壁はその先なく、レンガブロックのような石の階段だけが下へ下へと続いているだけ。正直恐ろしい。
「ヘイ様。大丈夫です。これは幻覚です」
「幻覚?」
「パラフレニー現象です。著しい妄想を元に幻覚を見てしまう精神病の一種を一般的に使う用語ですが、仕組みはそれと同じです。何人も寄せ付けないアジトになっているので、味方にさえこのような罠を仕掛けているのです。大丈夫です、お進みください」
「……わかった。進もう」
ここで躊躇って立ち止まっている場合ではない。ユメを信じて一歩、また一歩と螺旋空中階段を降りていく。雲がまだ遠く下の方に見えている。風もあるように感じるため、その空気の流れがより恐怖を喚起させる。足をつけたのについていないかの様。滑り落ちるような錯覚さえする。靴底の感覚がまるで無いかのようで、段差を踏んだ心地もない。おそろしい。これが精神攻撃と言うやつなら見事に成功している。
そんなこんな死ぬような思いを死にそうな顔をしながら、時間をどっとかけながら、私はなんとか扉の前までたどり着く。
私達二人は学園の敷地内に戻った。
姫様の部屋にお邪魔し、その直後だったので辺りは夕暮れを過ぎて夜闇に包まれていた。自動販売機や街灯、建物の灯りがちらちらと散らばっている。夜の学園は全体的に暗い。鬱蒼とした森のように暗いところもあれば、安心するような暖かな光が溢れている場所もある。人気はなく、寮に住む敷地内の学生が外出を厳しく制限させられていることがわかる。私とユメは闇に紛れながら進み、場所を探った。まるで盗賊のように。さながら秘密組織の一員のように。
「お待ち下さい」
ユメが声を潜めて言う。
「あったのか」
私も合わせて会話する。
「おそらくどこか、この辺に地下へ続く場所があるのでは無いかと思います」
「探そう」
「はい」
地下への入り口。秘密扉。ベンチの裏。街路樹の下。芝生の中。マンホール、側溝の切れ目。どれも薄暗く、輪郭さえはっきりとは見えにくい。暗視に慣れてきてはいたが、それでも難しい。普段見落としているところ。普段見ているところ。見ているつもりで見ていないところ。
……あった。
それは轟々と音を立て、毫光と明るい四角の白い箱。値段と商品サンプルが照らさており、あったか〜いとつめた〜いが双方列で別れて販売されている。
その下。
小銭でも落としたかのような、はたまた卑しく銭を稼ごうとしているようにしか見えないその格好は、正しく求めていた正解であった。自動販売機の下にその入り口はあったのである。
「ユメ!」
「はい……たしかにこれですね。よくぞ見つけましたね、ヘイ様。あそこにある、あの鉄の棒のようなものが入り口の蓋を開ける取手だと思われます」
二人で自動販売機を動かす。
……びくともしない。
ユメになんとかしてもらう。
……なんとかしてもらった。
無事に自動販売機をどかし、その入り口を見つけることができた私達は早速その重い鉄扉を開けて、地下へと続く階段を慎重に降り始めたのだった。
※ ※ ※
「ここは……」
そこは天空だった。
見下ろし階段の続く先は雲の上。見上げれば先程まで下ってきた石の階段が続いており、ユメが後ろからついてきている。階段に手すりや壁はその先なく、レンガブロックのような石の階段だけが下へ下へと続いているだけ。正直恐ろしい。
「ヘイ様。大丈夫です。これは幻覚です」
「幻覚?」
「パラフレニー現象です。著しい妄想を元に幻覚を見てしまう精神病の一種を一般的に使う用語ですが、仕組みはそれと同じです。何人も寄せ付けないアジトになっているので、味方にさえこのような罠を仕掛けているのです。大丈夫です、お進みください」
「……わかった。進もう」
ここで躊躇って立ち止まっている場合ではない。ユメを信じて一歩、また一歩と螺旋空中階段を降りていく。雲がまだ遠く下の方に見えている。風もあるように感じるため、その空気の流れがより恐怖を喚起させる。足をつけたのについていないかの様。滑り落ちるような錯覚さえする。靴底の感覚がまるで無いかのようで、段差を踏んだ心地もない。おそろしい。これが精神攻撃と言うやつなら見事に成功している。
そんなこんな死ぬような思いを死にそうな顔をしながら、時間をどっとかけながら、私はなんとか扉の前までたどり着く。