「こちら夢野、潜入開始します。レフト……クリア。ライト……クリア。進みます」

「了解」

「夢野、現在対象は確認できず。前方にルームK有り。二階を優先すべきと思いますが、指示願います」

「……ルームK?」

「Kです。コーィルームです」
  

 あ、更衣室か。なぜボカす。


 ……? ん、寮の? 

 
 普通、自分の部屋で着替えるのではないのだろうか。わざわざ着替える場所? ……風呂か! 風呂場だな! 女子寮の女子校生の大浴場。ガールズラブでなくても、ゆりゆりうりうりつつきながらキャッキャッしたり……。


「……コホン。ユメ、今この時間生徒は各部屋で過ごしてるのか」

「いえ、ちょうど入浴時間です。部屋にシャワーはありますが、湯船は大浴場が時間で開放されています。ちなみに温泉が湧いているので、源泉かけ流しです。人数制限せずとも全員が余裕で入れるすっごい広さらしいです」


 ……それはまた大層なモノを。旅館でもやるつもりなのだろうか。


「なら部屋は今はがら空きか」

「誰もいないことはないと思いますが、おそらくは」

「ヨシ。いこう」

「御意」

 
 隠しカメラ感度良好。音声異常なし。ルーム確認。ゴーサイン。


「電子カード式か……」

「おまかせを」

 ピピ。

「おお」


 なんと周到な用意を。放課後から夜まで僅かな時間しかなかったというのに。無論、夢野は女子寮には入っていない。私の学生マンションの目の届く範囲に住んでいるらしい。……えっ、こわ。


「夢野、入ります」

 
 部屋は消灯状態。スタンガン付きだという懐中ライトで素早く、クイックに、カチカチとあたりをまばゆく照らす…………。


「クリア。敵影なし、異常なしです」

「了解。速やかに任務を実行せよ」

「御意」


 隠しカメラを暗視モードにする。ふむふむ、二段ベッドに二つの机。噂通り、女子寮は相部屋のようだ。該当者のベッドは一段目か。アイドルのポスターに、占い雑誌が多いな……。

「あったか」

「いえ、なかなか可愛らしい下着だと思いまして……」


 オイ、こら。まて、見せるでない。私にそういう趣味があるみたいじゃないか嫌いじゃないぜふむふむ。


「……コホン。あまり時間ないんだろう? なにか証拠みたいなの無いのか」

「それでしたら、ニ、三見つけました。押収済みです」

「退却! ユメ、なに悠長にしてるの!」 

「いえ、下着の可愛らしさもそうなのですが……少し気になっただけです」


 まったく、そんな暗いところで良く分かるな。まるで特殊な訓練を積んでいるみたいじゃないか。


「大丈夫です。夢野離脱します」

「了解」
 
 
 私が現在、仮に時間を超えているのだとしたら、それは大変なことである。
 

 元の世界はどうなった? 宇宙人の侵略は? 姫様は無事なのだろうか。わからないことと、心配事しかない状況で他人の友人のトラブルに首を突っ込んでいるのは、それが遠回りのようで近道だからだ。なぜなら、その誹謗中傷の中心人物こそが味楽来玖瑠実だというのだ。そう。潜入先は玖瑠実氏のプライベートルーム。彼女が一年後に性悪になっていることは非常に残念なことであるが、しかし時間移動してすぐに聞いた話がこれである。なにか運命じみたモノを感じてしまったとしても、誰が私を責められよう。いや、責められまい。ゴー、夢野。男である私にはできないミッションを成功させ、ついでに帰る方法を、たとえばタイムマシンとかを見つけてくるのだ!


 しかし、事実は運命じみた感覚とはズレていた。


 玖瑠実氏のベッドから出てきたのは占い雑誌と科学誌のみ。CERNとタイムマシンやら2000年問題やらの記事が含まれている。未来人っぽさはあるが、しかし内容は現代人らしい。ちょっと不可思議でエスエフに興味がある年頃のモノ。見つかったのはそれだけであった。
 

「結局犯人となる証拠は見つかりませんでした」

「えっ、ユメ。さっきニ、三個既に見つけたとーー」

「はい、ヘイ様。見つけて参りました。しかし、結果から申しますと味楽来さんは未来人ではありません。それと、ついでではありますが、誹謗中傷の犯人でもありません」

「な、なに? 玖瑠実氏は未来人じゃない?」

「玖瑠実ちゃんが犯人じゃないの?」


 私とブラウの声が重なる。「御意」と、二人の質問を一言で返した夢野は続けて言った。


「では、まず誹謗中傷の件からご説明致します。犯人は相部屋の方のようでした。その証拠として、味楽来さんが犯人だと思わせるような証拠と、彼女が実行犯である証拠がこちらに」


 それは小さなメモリスティックだった。なるほど、データを手に入れてきたわけか。


「こちらです。こちらのプリクラにございます」


 プリクラ? ゲームセンターとかにある、女の子たちが良く写真取ってるような……プリクラ? メモリスティックに貼られている、その小さなプリクラ……?


「はい、ヘイ様。そして、ここに写るこの人物こそが犯人でございます」


 それは、まさか。まさかまさかであった。私は何かと見間違えたのか、空見したのか、私の思い込みではと、そう思ったが、ユメは至って真面目にそれが「事実です」と伝えてきた。


 プリクラに写っていたのは制服姿の玖瑠実氏と、あの自称超能力者の彼、否、彼女の姿がそこに写っていたのであった。