向かい合う二人からはただならぬ空気を感じられた。
呪符を持つスーツ姿の男を睨むのは白い鬼の妖。
「ようやくお出ましですか」
「どけ、殺されたくなければな」
背後にはここに来るまでに倒してきたのか、何人もの術師達が倒れているのを確認できる。辺りには砂ぼこりが立ち込め、建物が崩れかかっていた。
「優秀なうちの隊を瞬殺とは、流石は妖の頂点といったところ。貴方には是非一度お目にかかりたいと思っていたのですよ、鬼頭白夜殿」
「誰だよテメェ」
「僕は八雲朧。八雲家当主である八雲浩司の息子です」
「…テメェらか、俺の大事な女に手を出してくれたのは」
白夜は怒りをはらんだ目で朧を威圧すれば体からは強い妖力の気を放つ。その妖力の力はすさまじく、周囲の建物が震え出した。
「残念ながら、僕はこの件に関しては一切の関与をしていません」
「ならテメェなんざ用はねぇ。死にたくなければ黙ってそこを通せ」
「はは、やはり噂通りのクソガキですね。まあでも今回は見逃しましょう。僕もあの男のやり方には反対でしたし。…さっさとその座を引き渡して欲しいところだったから。丁度良い」
朧は光の籠らない瞳で白夜へ笑いかければ静かにその道を通した。



気づけばまた真っ白な世界。
あれ?
もしかして私、死んだの?
周りを見渡してみても何もない。
快晴のような青空と、立っている場所は白くて底が見えない。
『…』
『…』
「!」
すると強い気配が背後へ突き刺さった。
振り返ればそこにいたのは黒い二つの小さな影。
『ニ…』
『ニン…ノ…スメ…』
それが何を言っているのかは分からない。
聞き取ろうと近づけば、おぞましいほど強く感じる霊力への気配。
押しつぶされそうな勢いには足が咄嗟に止まる。
『ニンゲンダ。ミツバ…ミツバガカエッテキタヨ』
『ミツバトオナジニオイ…ダガミツバジャナイヨ』
「(母上の名前だ!)」
片言だが彼らの言っていることを何となく聞き取ることができた。
私は覚悟を決めれば彼らへ話しかける。
「私は久野時雨。貴方達の言う美椿は私の母上よ」
『クノ…シグレ?シグレ、シグレ…』
興味を示したのか、影達はユラユラと私の方に近づいて来る。
「ッ~!!」
何だ、この強い引力は。
心臓が圧迫されたように締め付けられて痛苦しい。
気を緩めれば簡単に精神が持っていかれそうだ。
彼らがこちらに近づくにつれて私の体は悲鳴をあげ始める。
『ミカミノチダ。ミツバノチダ。ホシイ…オマエガホシイ』
『ココカラダセニンゲン』
「うっ」
まずい、このままでは危険だ。
最悪、気に押し負ければ私の身が持たないだろう。
それこそ死んでしまうかもしれない。
何とかしなければ。
でもどうしたら…。
と、私にはある一つの考えが頭に浮かんだ。
上手くいくかなんて分からない。
でもこうなったら後はもうやってみるしかない。
「ここから出たい?望むなら私が貴方達をここから出してあげる」
『『!!』』
生きて、また白夜様の元へ帰るためにも。
「私ならここから出してあげられる。その代わり、私の役に立って」
この子達がここから居なくなりさえなれば。
八雲家に悪用され、多くの術師が殺されることもない。
式神を保有できるほどの力が、その者に備わるというのなら。
母上がそれを耐えきったというのなら。
ならばきっと使役できるはずだ。
私がこの子達を使役してしまえば。
「お願い、私を助けて」
『モウクルシマナクテスム?』
「うん、約束する。だからお願い。私に力を貸して」
『ミカミノヤクソク』
「うん、約束。だからお願い。もう、全部壊して」
その一言で影達は勢いをつけると私の心に飛び込んだ。
すると直後、体には大きな衝撃が響き渡った。
「ぐっ、」
内蔵が破裂してしまうのではないかという程に強い激痛が走る。
だが同時に耐えきれないほど睡魔が襲いかかる。
私はその場へ倒れ込んでしまえば再び意識を失った。