「時雨!!」
白夜が部屋に飛び込んだのと太極図の光が消えたのはほぼ同時だった。
「鬼神⁈」
「え、白夜様⁈」
八雲達はいきなり現れた白夜の姿に驚愕する。
だが白夜は八雲達には目も暮れず、その直ぐ横に倒れ込む時雨を視界に捉えれば目にも止まらぬ速さでそこへ駆け込む。
「時雨、時雨!」
その体を抱き上げ揺さぶるも応答がない。
冷たい…こんなにボロボロになって、、
着ていた着物は汚れ、体はぐったりしている。
だけど手には白夜がプレゼントした椿の簪がしっかりと握られていた。
「ごめん。俺がもっと早く助けに来ていれば」
ごめん、ごめんな。
白夜は後悔で押しつぶされそうになりながら、それでも時雨をしっかりと抱きしめた。
「ん…」
すると腕の中からは声が聞こえた。
慌てて顔を上げれば、そこには薄っすら目を開け白夜を見つめる時雨の姿があった。
「時雨、俺の声が聞こえるか⁈」
「白夜…様?」
おぼつかない意識の中、白夜は名前を呼んだ時雨の姿に安堵する。
「時雨…良かった。もう大丈夫、もう大丈夫だからな」
もう一度、その体をしっかり抱きしめて、優しく頭を撫でれば自分の存在をしっかりと知らせてあげる。
「白夜様、会いたかっ…た」
「!!」
時雨は白夜の存在を確認すれば嬉しそうに目を閉じた。
スヤスヤと眠るそんな姿を見つめる。
「時雨……」
俺もお前に会いたかった。
体中傷だらけで弱り切った大切な俺の花嫁。
でも無事でよかった。
そして次に白夜の中には沸々とした怒りだけが目の前にいる者達から伝わってきた。
「…それで?一体、オマエ達は何をしてくれたんだ?」
静かな怒りを孕んだ瞳。
さあコイツらをどうしてくれようか。
冷酷さを全身からさらけ出す白夜の問いかけに八雲は体を震わせた。
「私は何も間違ったことなどしておりませんわ!!」
最初に沈黙を破ったのは一華だった。
「異能も持たない無能な人間が隠世に行って何の役に立つというの?私のように完璧な人間こそ、貴方の隣に立つに相応しいはずなのに。それなのに何も出来ないお姉様が私の上をいくの?そんなのおかしいに決まってる!!」
「…」
「私は天才なのよ?お父様もお母様も。皆が私を誇りに思ってる。どんなに辛く過酷な久野家での生活にも私は決して負けなかった。鬼頭家の花嫁に相応しいのはこの私なの。それの何が違うというの?」
一華は白夜が抱きしめる時雨を睨み付けると本気で怒っていた。
自分は何も悪くない。
当然のことをしたまでだと。
自分の過ちを認めず否定せず、自分こそが正しいのだとそれを疑うことすらしない。
白夜は呆れて何も言えなかった。
だが彼女の言い分から察するに、この腐りきった考えと掲げる理念は何も彼女自身だけの問題ではなさそうだ。
異能を認め、無能を認めず。
それが術家に与えられた宿命。
その思想を素直に受け入れ、蝶よ花よと甘やかされ育てられた一華には人の心など持ち合わせていなかったのだ。誰かを慈しみ、支え合い、寄り添い。そんな温かな視線すら考えるあげることができない。
それはきっとこれから先もずっとそうなのだろう。
自分こそが正しい人間であると。
そうやって下の者を見下し軽蔑しながら生きていく。
だがそんな考えで白夜の価値までを決められると思い込んでいるなら大きな間違いだった。
「白夜様、貴方の花嫁は私ですわ。絶対にお姉様より役に立てると証明してみせます。私は久野家が認めた天才。貴方の運命。愛してますわ!だから、」
「いい加減黙れよ」
熱烈な言葉で誘惑しようとした一華だったが、それは白夜から発せられた言葉によって無惨にもかき消された。
「誇りとか天才とか。自身の愚かな過ちは何一つ顧みず、言いたいことだけは言って人を傷つけておきながら。何が自分は正しいですわだ。オマエの話にはもううんざりなんだよ。反吐が出る」
「…どうして。どうして分かって下さらないの!貴方の運命の花嫁は私だって。何度もそう言っているのに!なのになんで…なんでその子を庇うの!そんな役立たずを」
一華はヒステリックに悲痛な叫びをあげて癇癪を起こす。
白夜はそんな彼女に見向きもせず、時雨を抱き上げ立ち上がれば出口に向かって歩き出す。
「待って!」
一華は出口までの通路を塞げば白夜を引き留めた。
「お願い白夜様!お願いだから私を見て!」
「どけ」
「好きなんです!ずっとずっと貴方のことが。だからお姉様じゃなくて私を見て。ねえどうすればいい?どうすれば貴方は振り向いてくれる?許してくれる?どうすれば貴方は私を好きになってくれる?」
必死に白夜を引き留める。
それだけ好きであることの裏付けをしようと必死だった。
だが白夜の心には何一つ響かない。
冷めた目で見下ろすばかりで、白夜からすれば彼女の方こそ無能に近いと考えたりもした。
今、頭の中にあるのはただ一つ。
一秒でも早く。
この腕に抱く愛しい自分の存在を安全な基地に連れ帰る。
それだけだった。
「…二度は無い。俺は確かにあの日お前にそう言った。それが今後、お前にとって何を意味するのか。その身をもって十分に味わえ」
それを聞いた途端、一華は力なくその場に座り込んだ。
呆然とした態度で意味もなく項垂れれば何も話さなくなってしまう。
白夜はそんな一華には目も暮れず、静かにその場を後にした。
後に残るのは半ば崩壊した研究所の残骸。
そしていつの間に気絶していたのか、白夜の妖力に当てられれば口から泡を吹き失神する八雲の姿だけだった。
白夜が部屋に飛び込んだのと太極図の光が消えたのはほぼ同時だった。
「鬼神⁈」
「え、白夜様⁈」
八雲達はいきなり現れた白夜の姿に驚愕する。
だが白夜は八雲達には目も暮れず、その直ぐ横に倒れ込む時雨を視界に捉えれば目にも止まらぬ速さでそこへ駆け込む。
「時雨、時雨!」
その体を抱き上げ揺さぶるも応答がない。
冷たい…こんなにボロボロになって、、
着ていた着物は汚れ、体はぐったりしている。
だけど手には白夜がプレゼントした椿の簪がしっかりと握られていた。
「ごめん。俺がもっと早く助けに来ていれば」
ごめん、ごめんな。
白夜は後悔で押しつぶされそうになりながら、それでも時雨をしっかりと抱きしめた。
「ん…」
すると腕の中からは声が聞こえた。
慌てて顔を上げれば、そこには薄っすら目を開け白夜を見つめる時雨の姿があった。
「時雨、俺の声が聞こえるか⁈」
「白夜…様?」
おぼつかない意識の中、白夜は名前を呼んだ時雨の姿に安堵する。
「時雨…良かった。もう大丈夫、もう大丈夫だからな」
もう一度、その体をしっかり抱きしめて、優しく頭を撫でれば自分の存在をしっかりと知らせてあげる。
「白夜様、会いたかっ…た」
「!!」
時雨は白夜の存在を確認すれば嬉しそうに目を閉じた。
スヤスヤと眠るそんな姿を見つめる。
「時雨……」
俺もお前に会いたかった。
体中傷だらけで弱り切った大切な俺の花嫁。
でも無事でよかった。
そして次に白夜の中には沸々とした怒りだけが目の前にいる者達から伝わってきた。
「…それで?一体、オマエ達は何をしてくれたんだ?」
静かな怒りを孕んだ瞳。
さあコイツらをどうしてくれようか。
冷酷さを全身からさらけ出す白夜の問いかけに八雲は体を震わせた。
「私は何も間違ったことなどしておりませんわ!!」
最初に沈黙を破ったのは一華だった。
「異能も持たない無能な人間が隠世に行って何の役に立つというの?私のように完璧な人間こそ、貴方の隣に立つに相応しいはずなのに。それなのに何も出来ないお姉様が私の上をいくの?そんなのおかしいに決まってる!!」
「…」
「私は天才なのよ?お父様もお母様も。皆が私を誇りに思ってる。どんなに辛く過酷な久野家での生活にも私は決して負けなかった。鬼頭家の花嫁に相応しいのはこの私なの。それの何が違うというの?」
一華は白夜が抱きしめる時雨を睨み付けると本気で怒っていた。
自分は何も悪くない。
当然のことをしたまでだと。
自分の過ちを認めず否定せず、自分こそが正しいのだとそれを疑うことすらしない。
白夜は呆れて何も言えなかった。
だが彼女の言い分から察するに、この腐りきった考えと掲げる理念は何も彼女自身だけの問題ではなさそうだ。
異能を認め、無能を認めず。
それが術家に与えられた宿命。
その思想を素直に受け入れ、蝶よ花よと甘やかされ育てられた一華には人の心など持ち合わせていなかったのだ。誰かを慈しみ、支え合い、寄り添い。そんな温かな視線すら考えるあげることができない。
それはきっとこれから先もずっとそうなのだろう。
自分こそが正しい人間であると。
そうやって下の者を見下し軽蔑しながら生きていく。
だがそんな考えで白夜の価値までを決められると思い込んでいるなら大きな間違いだった。
「白夜様、貴方の花嫁は私ですわ。絶対にお姉様より役に立てると証明してみせます。私は久野家が認めた天才。貴方の運命。愛してますわ!だから、」
「いい加減黙れよ」
熱烈な言葉で誘惑しようとした一華だったが、それは白夜から発せられた言葉によって無惨にもかき消された。
「誇りとか天才とか。自身の愚かな過ちは何一つ顧みず、言いたいことだけは言って人を傷つけておきながら。何が自分は正しいですわだ。オマエの話にはもううんざりなんだよ。反吐が出る」
「…どうして。どうして分かって下さらないの!貴方の運命の花嫁は私だって。何度もそう言っているのに!なのになんで…なんでその子を庇うの!そんな役立たずを」
一華はヒステリックに悲痛な叫びをあげて癇癪を起こす。
白夜はそんな彼女に見向きもせず、時雨を抱き上げ立ち上がれば出口に向かって歩き出す。
「待って!」
一華は出口までの通路を塞げば白夜を引き留めた。
「お願い白夜様!お願いだから私を見て!」
「どけ」
「好きなんです!ずっとずっと貴方のことが。だからお姉様じゃなくて私を見て。ねえどうすればいい?どうすれば貴方は振り向いてくれる?許してくれる?どうすれば貴方は私を好きになってくれる?」
必死に白夜を引き留める。
それだけ好きであることの裏付けをしようと必死だった。
だが白夜の心には何一つ響かない。
冷めた目で見下ろすばかりで、白夜からすれば彼女の方こそ無能に近いと考えたりもした。
今、頭の中にあるのはただ一つ。
一秒でも早く。
この腕に抱く愛しい自分の存在を安全な基地に連れ帰る。
それだけだった。
「…二度は無い。俺は確かにあの日お前にそう言った。それが今後、お前にとって何を意味するのか。その身をもって十分に味わえ」
それを聞いた途端、一華は力なくその場に座り込んだ。
呆然とした態度で意味もなく項垂れれば何も話さなくなってしまう。
白夜はそんな一華には目も暮れず、静かにその場を後にした。
後に残るのは半ば崩壊した研究所の残骸。
そしていつの間に気絶していたのか、白夜の妖力に当てられれば口から泡を吹き失神する八雲の姿だけだった。



