白鬼の封印師

向かい合う双方からはただならぬ空気を醸し出す。
呪符を持つスーツ姿の男を睨む白い鬼。

「ようやくのお出ましですか(笑)」
「どけ…殺されたくなければな」
「優秀なウチの隊を瞬殺ですか」

白夜の背後にはここに来るまでに倒してきたのか、何人もの術師達の残骸が床に倒れていた。それを見た男は恐怖で顔を慄かせるどころか感心の目を寄越してくる。辺りには砂ぼこりが立ち込め建物が崩れかかっていたが、向かい合う二人は至って冷静だ。

「流石は妖の頂点といったところですね。貴方には是非一度お目にかかりたいと思っていたのですよ、鬼頭白夜殿」
「誰だよテメェは」
「八雲朧。以後お見知りおきを。八雲家当主八雲浩司の息子です」
「…テメェらか。俺の大事な花嫁に手を出してくれたのは」

白夜は怒りをはらんだ目で朧を威嚇すれば体からは凄まじい妖力を放つ。すると周囲の建物は白夜の妖力に共鳴して震え出した。

「残念ながら。今回の一件、僕は一切の関与はしていませんよ」
「ならテメェに用はねぇ。死にたくなければ黙ってそこをどけ」
「はは、やはり噂通りのクソガキですね。まあでも…今回は見逃しましょう。僕もあの男のやり方にはウンザリしてましたし。貴方が殺してくれるなら無駄な手間も省けるというもの。さっさとその座を明け渡して欲しいところでしたので」

朧はやれやれと顔を振るも、やはり術師特有の闇を孕んだその目は相変わらずで静かに笑うとその道を譲った。


△▼△
気づくとまた真っ白な世界。
あれ?
もしかして私…死んだの?
周りを見渡してみても何もない。
快晴の青空に立っている場所は白く底が見えない。

『…』
『…』

すると強い気配が背後へ突き刺さった。
振り返ればそこにいたのは黒い二つの小さな影。

『ニ…』
『ニン…ノ…スメ…』

何を言っているのかは分からない。
聞き取ろうと近づけば、おぞましい霊力への気配につい押しつぶされそうになってしまえば咄嗟に足が止まる。

『ニンゲンダ。ミツバ…ミツバガカエッテキタヨ』
『ミツバトオナジニオイ…ダガミツバジャナイネ』

お母さんの名前⁈
片言だったけどハッキリ聞き取れた。
時雨は覚悟を決めれば影達に話しかけた。

「私は久野時雨。貴方達の言う美椿とは私の母よ」
『クノ…シグレ…クノシグレ…シグレ…』

興味を示したのか、今度は影た達がユラユラと近づいて来る。
怖がるな。
怖気づくな。
心臓が圧迫されたような強い痛みと気を緩めれば簡単に精神が持っていかれそうになるのをグッと堪えれば影達と向き合う。

『ミカミノチダ。ミツバノチダ。ホシイ、オマエガホシイ』
『ココカラダセニンゲン』
「うっ、、」

まずい、このままでは限界が近い。
体が影達に耐え切れず悲鳴を上げている。
これがもしや八雲の言っていた式神?
圧倒的な憑依に向けた体を蝕む力を前に時雨は命の危機を感じた。
何とかしなければ。
でもどうしたら…すると時雨にはある考えが頭に浮ぶ。

「ここから出たい?望むなら私が貴方達をここから出してあげる」
『『!!』』

それに反応を示した影達。

「私ならここから貴方達を出してあげられる。その代わり…私に力を貸して」

この子達がここから居なくなりさえなれば。
八雲家に悪用されることもない。
多くの術師が犠牲になることもない。
式神を保有できる力が自分に備わるというのなら、そして母親がそれを耐えきったというのなら。
自分にだってできるかもしれない。
私がこの子達を使役してしまえば!

「お願い。私を助けて」
『……モウクルシマナクテスム?』
「うん、約束する。だからお願い。力を貸して」
『ミカミノヤクソク』
「うん、約束。だからお願い。全部壊して」

その一言で視界が砕けた。
影達は勢いをつけて時雨の心臓に飛び込めば、体には大きな衝撃が響き渡る。

「(ああ、痛い!!!!!)」

内蔵が破裂しそうなほどの激痛。
同時に耐えきれないほど強い睡魔が襲いかかる。
時雨は耐え切れずその場に倒れ込んでしまえば再び意識を失った。