ーーガシャン!!

「ッ~~!!」
俺と時雨を繋ぐ妖力がプツリと切れたかのような強い感覚。強い衝撃が俺には走った。
アイツの気配が俺の領域内から消えたのだ。
薬を受け取りに鳳魅の元へ訪れた俺は、飲み薬の入った瓶を手から滑り落とすと瓶はその衝撃に耐えきれず粉々に砕けてしまった。
「何、どうしたの?って若、大丈夫かい⁉」
心配して駆け寄る鳳魅の声すらまともに耳に入らない。
「…やられた」
「え?」
「時雨が…攫われた」
「何だって、時雨ちゃんが⁈」
焦る気持ちを抑えて必死に意識を集中させると時雨の気配を探り出す。
何処だ、何処にいる!
俺の時雨を何処に隠しやがった!!
隠世を隅から隅まで見渡すがどこにもアイツの姿が確認出来ない。
「(まさか!)」
俺はその望みにかけて透視の矛先をある場所へと向けた。すると直ぐに時雨の気配がある場所で確認できた。
だがその場所を見た途端、俺は居ても立っても居られず一秒でも早くその場所へ向かおうと動き出す。
「ちょ、待ちなよ若!!一体どこに行くつもり⁉」
鳳魅が慌てて引き留めれば、白夜は深刻そうな顔をしていた。
「八雲家だ。アイツは今、そこにいる」
「八雲家?八雲家って、あの陰陽師の?」
八雲家。
それは陰陽師を生業に厄を払う家系だ。
鬼頭家との直接的な繋がりは過去になく、代々その家の花嫁を娶る相手は狐野家であった。
だがここにきて、鬼頭家の内部に八雲家の人間が接触してきたようだ。
その目的は…。
「八雲家の人間が時雨を攫った。俺は今すぐ現世に行く。悪いが俺の代わりにアイツへ連絡を頼みたい」
「まさか、君一人でそこに行くつもりなのかい??無茶だ、相手はあの御三家なんだよ⁉」
「あ?俺がそんな雑魚相手共に負けるとでも思ってんの?」
何が目的であいつらは時雨を攫った?
アイツは久野家の人間。
今まで八雲家との関わりなんてなかったはずだ。
ならばよっぽどアイツを手に入れたい事情が八雲家にはあるということなのか。
「チッ、ふざけやがって。この俺を怒らせることが何を意味するのか、ここできっちり教え込んでやる」
「…本当に一人で行くつもりかい?」
「ああ、アイツは絶対俺が助ける。契約もまだ切れていない。ならばアイツはまだ生きている」
俺はすぐさまその場で術を発動させれば床には波紋が形成される。
「急を要する案件だ。鳳魅、後のことはお前に任せたぞ」
「若…分かったよ。でもくれぐれも気を付けてよ⁉」
鳳魅に見守られ俺は鬼門の地まで一気に飛ぶとその境界を潜り抜ける。
見慣れた現世の光景。
アイツは今、この世界にいる。
命にかえても。
絶対にお前は俺が助けてみせる。
「時雨、今助けに行くからな」