失われていた記憶が僕の中によみがえってくる。
あの時の聖は、いまと同じように冷たい瞳をしていた。
全て思い出した。
僕は頭の打ち所が悪かったのか。それとも聖がひなたを傷つけようとしたことを夢だと思いたかったのか。
僕はひなたと出会ってからの記憶を失ってしまっていた。
「思い出しましたか。そうですよね。まぁ、いつかはそうなるとは思っていました。俺にとって、あんなに都合が良い事象が、そんなに長く続く訳ないって」
聖は淡々と告げていた。
「聖。馬鹿なことをもうやめろ。いまなら、まだ事件にはなってない。僕達が何も言わなければ、何もなかったのと同じだ。大げさなことにならずにすむ」
聖を止めようとして、僕は言葉をかける。
でも聖は止まらなかった。
まるで蛇のような冷たい目で、僕達をにらみつけているだけだった。
「今更です。俺は、もう罪を犯してしまった。だったら、それが一つ二つ増えたところで変わりません。こんどこそ、その人にいなくなってもらえば。きっと、うまく、いく」
聖はポケットに手をつっこむと、銀色のナイフを取り出していた。
そしてそのまま僕達へと迫ってきていた。
「ひなた、逃げようっ」
僕はひなたの手をひいて、走り始める。
だけどひなたは四ヶ月も家の中にいたせいか、それとも恐怖のせいかあまり足が動かないようだった。
聖はひなたへと迫ってきていたが、僕はひなたと聖の間にたって立ちふさがる。
「ひなた、今のうちに逃げるんだっ」
ひなたは聞こえないのだろう。僕をみてどうしたらいいのか迷っているようだった。
それでも大きく手をふると、そのまま背を向けて走り始める。
僕が前に立ちふさがっているからか、聖もいちど足を止めていた。
「友希さん、俺、友希さんは傷つけたくありません。だから、そこをどいてください」
「どけない。どかないよ。ひなたにはこれ以上には、手を出させない」
「それなら……!」
聖は僕へとナイフを突き立てるように迫ってきていた。
さすがにそのまま受けるわけにはいかない。
ナイフを避けて、その腕をとろうと手をのばす。
だけど僕は武術の達人とかでもなんでもない。避けるのが精一杯だった。
僕の隙をついて、聖はそのままひなたを追いかけ始めていた。
「させるかっ」
僕はすぐに聖を追って走り出す。
ひなたは少し先に言っていたけれど、このままではすぐに聖は追いついてしまうだろう。
僕は聖の背中へと飛びついていく。
聖はそのまま地面へと倒れ込むが、僕も聖をおさえつけることは出来なかった。
聖はすぐに僕を蹴り飛ばして、身を起こした。
そして僕には目もくれず、ひなたを追いかけ始める。
「やめろっ。まてっ」
僕も立ち上がろうとするけれど、右肩に激しく痛みが走る。ひじりの蹴りが当たった場所だ。
だけど今は痛みなんてどうでもよかった。聖を止めないといけない。
歯を食いしばって、また走り出していく。
やがて、ひなたが、僕達がたどりついたのは、事故のおきた、あの崖の上だった。
「もうあとがありませんね……!」
聖が笑っていた。
いや背中を向けているから、本当に笑っているのかなんてわからない。
「やめて。もうやめて。こんなことしたって、君の思うようにはならないよ」
ひなたが聖ににらみつけていた。
「あなたの意見なんて、どうでもいいんです。俺、俺は。あの人が幸せになってくれれば、それで」
「ほんとに、それで幸せになれると思っているの。何をしたいかわからないけれど、結局それは君を傷つけるだけだよ」
聖とひなたがあのときと同じように、崖の前に立っていた。
「知ったことじゃないです。俺が傷つくのなんて、どうでもいい。あの人が、幸せになってくれれば、それで」
「君の言うその人だって、幸せになんてなれないよ」
「うるさい。知ったような事を言うな!」
聖が叫んでいた。
僕はやっとのことで二人に追いつく。
「やめろ、聖。ひなたは関係ないだろ。傷つけるなら、僕の方にしろ」
声をかけると、聖は少しだけ僕の方へと顔を向ける。
「……そうできるのなら、そうしますよ。でも、あの人が幸せになるには、貴方が必要なんです。だから、俺は」
聖の言うあの人とは、きっと美優のことなんだろう。
胸の中が痛む。ぎゅっと心臓がわしづかみにされたように思えた。
僕が美優を選んでいれば、聖は何もしなかったのだろうか。僕がひなたに惹かれなければ、平和なままでいられたのだろうか。
僕の決断が、何もかも狂わしてしまったのだろうか。
でも僕は選んだ。
ひなたの隣にいることを。
その想いが過ちだったなんて、言って欲しくはなかった。
たとえそれが美優、聖を傷つける答えだったのだとしても。
「友希くん、危険だよ。にげて……!」
「ひなた。僕は逃げられないよ。君を必ず守るから」
僕はひなたに答える。
ひなたが首を振るのが見えた。
あの時の聖は、いまと同じように冷たい瞳をしていた。
全て思い出した。
僕は頭の打ち所が悪かったのか。それとも聖がひなたを傷つけようとしたことを夢だと思いたかったのか。
僕はひなたと出会ってからの記憶を失ってしまっていた。
「思い出しましたか。そうですよね。まぁ、いつかはそうなるとは思っていました。俺にとって、あんなに都合が良い事象が、そんなに長く続く訳ないって」
聖は淡々と告げていた。
「聖。馬鹿なことをもうやめろ。いまなら、まだ事件にはなってない。僕達が何も言わなければ、何もなかったのと同じだ。大げさなことにならずにすむ」
聖を止めようとして、僕は言葉をかける。
でも聖は止まらなかった。
まるで蛇のような冷たい目で、僕達をにらみつけているだけだった。
「今更です。俺は、もう罪を犯してしまった。だったら、それが一つ二つ増えたところで変わりません。こんどこそ、その人にいなくなってもらえば。きっと、うまく、いく」
聖はポケットに手をつっこむと、銀色のナイフを取り出していた。
そしてそのまま僕達へと迫ってきていた。
「ひなた、逃げようっ」
僕はひなたの手をひいて、走り始める。
だけどひなたは四ヶ月も家の中にいたせいか、それとも恐怖のせいかあまり足が動かないようだった。
聖はひなたへと迫ってきていたが、僕はひなたと聖の間にたって立ちふさがる。
「ひなた、今のうちに逃げるんだっ」
ひなたは聞こえないのだろう。僕をみてどうしたらいいのか迷っているようだった。
それでも大きく手をふると、そのまま背を向けて走り始める。
僕が前に立ちふさがっているからか、聖もいちど足を止めていた。
「友希さん、俺、友希さんは傷つけたくありません。だから、そこをどいてください」
「どけない。どかないよ。ひなたにはこれ以上には、手を出させない」
「それなら……!」
聖は僕へとナイフを突き立てるように迫ってきていた。
さすがにそのまま受けるわけにはいかない。
ナイフを避けて、その腕をとろうと手をのばす。
だけど僕は武術の達人とかでもなんでもない。避けるのが精一杯だった。
僕の隙をついて、聖はそのままひなたを追いかけ始めていた。
「させるかっ」
僕はすぐに聖を追って走り出す。
ひなたは少し先に言っていたけれど、このままではすぐに聖は追いついてしまうだろう。
僕は聖の背中へと飛びついていく。
聖はそのまま地面へと倒れ込むが、僕も聖をおさえつけることは出来なかった。
聖はすぐに僕を蹴り飛ばして、身を起こした。
そして僕には目もくれず、ひなたを追いかけ始める。
「やめろっ。まてっ」
僕も立ち上がろうとするけれど、右肩に激しく痛みが走る。ひじりの蹴りが当たった場所だ。
だけど今は痛みなんてどうでもよかった。聖を止めないといけない。
歯を食いしばって、また走り出していく。
やがて、ひなたが、僕達がたどりついたのは、事故のおきた、あの崖の上だった。
「もうあとがありませんね……!」
聖が笑っていた。
いや背中を向けているから、本当に笑っているのかなんてわからない。
「やめて。もうやめて。こんなことしたって、君の思うようにはならないよ」
ひなたが聖ににらみつけていた。
「あなたの意見なんて、どうでもいいんです。俺、俺は。あの人が幸せになってくれれば、それで」
「ほんとに、それで幸せになれると思っているの。何をしたいかわからないけれど、結局それは君を傷つけるだけだよ」
聖とひなたがあのときと同じように、崖の前に立っていた。
「知ったことじゃないです。俺が傷つくのなんて、どうでもいい。あの人が、幸せになってくれれば、それで」
「君の言うその人だって、幸せになんてなれないよ」
「うるさい。知ったような事を言うな!」
聖が叫んでいた。
僕はやっとのことで二人に追いつく。
「やめろ、聖。ひなたは関係ないだろ。傷つけるなら、僕の方にしろ」
声をかけると、聖は少しだけ僕の方へと顔を向ける。
「……そうできるのなら、そうしますよ。でも、あの人が幸せになるには、貴方が必要なんです。だから、俺は」
聖の言うあの人とは、きっと美優のことなんだろう。
胸の中が痛む。ぎゅっと心臓がわしづかみにされたように思えた。
僕が美優を選んでいれば、聖は何もしなかったのだろうか。僕がひなたに惹かれなければ、平和なままでいられたのだろうか。
僕の決断が、何もかも狂わしてしまったのだろうか。
でも僕は選んだ。
ひなたの隣にいることを。
その想いが過ちだったなんて、言って欲しくはなかった。
たとえそれが美優、聖を傷つける答えだったのだとしても。
「友希くん、危険だよ。にげて……!」
「ひなた。僕は逃げられないよ。君を必ず守るから」
僕はひなたに答える。
ひなたが首を振るのが見えた。



