4人目の仕事を終えた私は死後の世界の事務所にいた。
 イスに座り、テーブルに肘をついて、考えることはやっぱり来衣先輩のことだった。
 来衣先輩が頭の中から離れてくれないけど……これでよかったんだよ。こうするしかなかったんだ。
 自分を説得するように心の中で何度も繰り返した。


「未蘭ちゃん、元気ないみたいだけど大丈夫?」

「あ、……はい。だ、大丈夫……です」

 楓さんは私の顔を覗き込みながら優しい声をかけてくれた。

「そんな時に悪いんだけどちょっと話があるの」

「……どうしたんですか?」

 楓さんは目を伏せて言いにくそうにしている。
 なんだろう。嫌な胸騒ぎがする。

「最上来衣くんが、死亡予定者リストに入ってるの。なにか知らない?」

「し、死亡予定者リストに? な、なんで……」

「昨日までは名前はなかったのに、急遽追加されてるのよ」

「そ、それって、死亡予定者リストに追加されたら、死んでしまうってことですか?」

「……」

 返事を濁す楓さん。その表情で答えを知ることが出来た。

「来衣先輩が……死ぬ」

 来衣先輩が死んでしまう。
 急遽追加されたってことは、昨日までは予定になかったってということだ。彼が死んでしまうという予告が怖くて動悸と全身の震えが止まらなかった。 

「未蘭ちゃん……未蘭ちゃん! 大丈夫?」

「……だ、大丈夫じゃないです」

 分かりやすく動揺している私の顔を心配そうな表情で覗き込む。そんな楓さんに縋るように視線を向けた。

「あ、あの、来衣先輩の死因ってなんですか?」

「それが死因は……書いてないのよ。普通は死因まで載ってるはずなんだけど。……これは私の想像なんだけど、もしも最上来衣さんの死因が、自死なら……」

「え、それって、自殺ってことですか?」

「落ち着いて? あくまで私の想像よ? 死亡予定者リストっていうのは、あくまでも死後の世界で円滑に処理できるように、組まれた予定者リストなの。つまり、リスト通りに死なない人だっているの」

「え、」

「もちろん、病気や寿命で死んでしまう人は、死ぬ運命を変えることは出来ない。ただ、彼は急遽追加されたから、病死や寿命ではないということ……」

「……」

「後3日。未蘭ちゃんが守護霊代行の仕事が残された3日で、彼がなぜ死ぬことになるのか、調べてくれる? 死亡予定者リストから除外出来たら、もっといいんだけど」

「除外できれば、来衣先輩は死ななくて済むってことですか?」

「あくまで予定だから。減る分には問題ない。どちらにしてもそれに急遽追加されることって稀なのよ。なにか理由があるかもしれない」

「自死」その言葉の重みに心臓がバクバクと嫌な速さで波打つ。

「未蘭ちゃん、私はあくまで可能性の話をしてるから。自死と断定はできないし、事故の可能性もあるわ」

「はい。あっ、でも、助ける危険は小さな危険だけってルールありますよね?」

「基本的にはね。でも今回は特例。死亡予定者リストから除外できるなら、それはこちらも助かるの。私の仕事が減るからね」

「わ、私も、来衣先輩に死んでほしくないです!」

「では、決定ね。未蘭ちゃんは最上来衣くんの守護霊代行をすること。仕事内容に追加として、最上来衣くんを死亡予定者リストから消すこと」

「でも、どうやって?」

「それは……未蘭ちゃんに任せるわ」

「そ、そんな……」

 来衣先輩が死亡予定者リストに入っているなんて不安で胸が落ち着かなかった。とはいえ、阻止するために合法的に動けるなんて。私にとっては有難い。
 でもどうやって阻止すればいいのか良い案が全く浮かんでこない。

 それに加えて、関わらないと決断して来衣先輩と嫌な別れ方をしたばかりなのに。どの面を下げて会いに行けばいいのか。

 考えなくてはいけないことがたくさんあるが、今は一番に願うのは来衣先輩を助けたい。彼に死んでほしくない。

 その気持ちに嘘はなかった。