「残念なことにあなたはファストフォワード症候群です」
医師にそう私は診断された。異国語を英語のリスニングのように聴き取った気分で頭に聴き取った語を並べる。だけど、それがなんなのか暗い背景を確実として出なかった。
ファストフォワード症候群とは若くして歳老いてしまう病気で異常な白髪やしわの艶が衰えたり、もちろん視力も。白内障とかも発症しやすいようだ。
珍しい病気なので、ともう一度復唱する医師。私は完璧に聴き取ってしまう。
「先生、それは治るのでしょうか」
「残念に確かな医療技術は確立されていません。遺伝子で起こる非常に稀な病気でございまして……」
「私は、私はまだ生きたいのです」
先生は悪くない。ただ、悪いのは私でもない気がする。でも、悪い。
「先生。私は、私は……」
このワンシーンを夢と思いたかった。だから、家に帰って何度も頬を叩いた。
覚めろよ、覚めろよ、覚めろよ……。
答えは事前に知っている。夢でも物語でもない。今目の前にあるのは現実という恐怖だ。
私はこのことを誰にも言わないと決めた。例え、親にも兄にも友達にも、そして最近できた彼氏にも。医師と相談して決めたのだ。
翌日の通院。
「僕は患者の思いを叶えたいと思う。そしてその思いも医師をしていて何度も直面してきた」
医師はこう言う。だけれど、これは言って良いのだろうか。口ぱくだ。
「迷惑は嫌なんです。小さい頃から誰とせずに迷惑をかけてきました。最後も私はそうしてしまうのでしょうか。私は嫌です」
何を言っているのかと言わんばかりに耳を私の口元に近づけてきた。わかる訳ないのに、その先生の患者の思いを受け止めようという思いはなんなのだろう。私一人の存在で台無しにしてしまってないだろうか。
「すみません、先生」
「謝らなくていいよ」
思いは告げなかった。有耶無耶がより複雑となり絡まっていく。だから、こうしよう。
一冊のノートに『私のお菓子』と名付けて字を刻む。
「久しぶり。珍しいね、実家に帰ってくるの」
車を走らせ私は実家へと来た。久しぶりに会う家族の顔は少し心を弾ませてくれた。久しぶりに聞いた兄の声。なんかまた低くなったのかな。
「最近仕事忙しいからさ、気分転換みたいな?」と私は言い訳。ごめんね、お兄ちゃん。
「そうか、そうか。ゆっくりしていきね。お菓子、羊羹あるけど食べたい?」
私は頷いた。そして、このとき羊羹を出してくれたとき嬉しかった。小さいときにお婆ちゃんの影響でよく羊羹を食べてすっかり気に入ってしまった。
目を瞑ってでもどこに何があるか、ここにはこんな色の家具があるとかわかってしまう。一八年間お世話になった実家が幼少期の時を載せるアルバムのようだった。そして、それらは一つの長いフィルムとなってつながり、映画のように頭に流れる。思い出すとキリがない。
他はどんなことをしたっけなってこれを書いているときに思った。でも、大丈夫だよ。最後の実家はちゃんと心に焼き付いているよ。その後はご飯作ってくれたよね。お兄ちゃんの得意なチャーハンだった。
*
「昼だから何か作るけど、もう食べた?」
「食べてないから作ってほしいな」
残り何回食べれる、いや駄目だ。診断結果を聞かされたあのときから私は"残り"とものの最初につけるようになってしまった。これに気づいたのはすぐだし、すぐにやめようと思った。でも、心に深く抉られた傷跡はすぐには癒えない。
お兄ちゃん特製の昼ご飯はチャーハンだった。男ならではなんだと思う。男の友達も、友達の兄弟も何故か男子の得意料理はチャーハンが絶対だった。それを知って確かお兄ちゃんと笑ったな。どうでも良いことで笑うって……。
そんな経験、最近はめっきりご無沙汰だった。実家ってなんだか偉大だ。
醤油と卵の匂いが鼻にガツンとくる。あー、それと焼豚の濃いタレの匂い。
「今日も上手くできた。最近上手く作れるんだよね」
「凄いじゃん。昔はあんなに味にばらつきがあったりだとか、お米がフワフワし過ぎてチャーハンと呼べなかったのに」
悪いな、と兄は言う。なんか、笑った。だから、私もそれに釣られて笑った。
*
「成長の兆しはどうだい?」
私は拳を前に突き出し親指を立てた。美味しいよ、という意味だ。私たちは子供の頃によくこんなやりとりをしていたから瞬時に兄は理解しただろう。
私は嬉しかった。長年経ったけど、こんな些細なことも通じるんだって。
*
だから私は口にした。
「お兄ちゃん。私、病気になった」
いろんな病院を転々とした。私が口にしてお兄ちゃんはすぐに行動を起こしてくれた。まずは、前提として私の病気について調べてくれた。
「若くして歳をとる病気。こんなのあるんだ」
お兄ちゃんが口にしたこの言葉を胸に留める。いつ死んでしまうかわからない体をどうにか支える魔法の粉とならないだろうか。
助けは十分だった。
「お母さんとお父さんには言わないで」
無理もない。散々迷惑をかけてきた母と父に最後まで私を救うなんてみっともない。だからふと溢すんだ。
時が経つとふと疑問に思った。兄にも迷惑をかけたことを思い出した。
私の"しや"は狭い。
私の"しや"は暗い。
実家に帰ってから、兄にずっと看病してもらっていた。私は実家を出た。迷惑なんだよ。私なんか。
せめて、最後の恩返しだ。
心の支えとなってきた『私のお菓子』を置いて私は旅たった。
妹の死が知れ渡ったのは一冊のノートを見つけて一ヶ月後のことだ。見えない者を幽霊とする風習が僕の住む町に広がるようになった。
ただ一人の僕だけが知るそれは、歩く死人。地面など踏めてはいなかった。
「迷惑だなんて思っていなかった。たった一人の妹を放っておくとか考えなかった」
「それならそうと早く言っとけばよかった。私は悪くない。全て兄、いや家族という無理な組み合わせが私をおかしくさせた」
止めなかった……。
幽霊はそう呟いて最後に泣き出した。ああ、止めなかった。
あのノートを見た。『私のお菓子』っていう可愛らしい題名をしている割には"死"って言葉をいっぱい使って呪いのノートかと思った。
「君が望んだことを僕は真っ当したかった。ただそれだけなんだよ。題名が気になってノートを何度も読み返した」
老若男女問わず大好きなお菓子は可愛らしい。食べていくたびにそれは減っていくからまたさらに可愛くうつる。終いに最後の可愛さを失ったものはすぐ捨てられる。ノートに書いてあった。"私は包みたくない。例えそれが誰であろうとも"って書いてあった。それがお菓子の袋を指すってことはわかったし捨てられるって聞いて何かしらの感情を持っているのも想起させた。
「包まなくていい。袋を所持しない君はお菓子になれたんだ。だから、僕という袋を抜け出してお菓子の望む自由を包んで消さないようにした」
「やっぱり私のお兄ちゃんだ。だけど違うんだ。ただただ迷惑をかけたくなかっただけなんだ」
妹は続ける。
「私はお菓子になんかなれなかった。袋も裂いて自由になんかなれなかった。家を出て半ば自由になれた。だけど、どうだ。あても何もないとそれは絶望への一本道だった。確実なんて言葉を咲かすことができない。果てるを除いてだった」
妹は背を見せた。
「自由が怖いってわかった。だから、兄という存在を待って頼ってみた。止めて欲しかった。だけどわかっていた。私が出る前も兄はわかっていなかった」
家を出る前に妹は僕に幼いときよりもたくさん構ってくれていた。それを思い出して一気に気づくことができなかった自分を酷くつらく思った。死ぬことがわかっている人が死にたいと思うはずがない。残された命を懸命に生きる妹を支えるなんてこと自分はできていなかった。お菓子もまたそのサインかもしれない。
「失うのが怖いんだ」
妹は言う。
「死ぬ時は何も思わないで死にたかった。死ぬ間際まで頭をパンパンにするなんて。格闘した。何もかもなくしたい自分とそれを作り出してしまう自分。結果は一進一退の攻防の末周りをも飲み込む戦乱。広い範囲で私の死を邪魔をし結局は幽霊となって潔く死ねなかったのだよ」
だからここにいるんだ、と最後に呟く妹。遠くの方で泣いていたんだ。なんで、僕はわからなかったんだろう。
「僕が君をわかるには……」
妹の戯言はこれにて否定と拒絶に変わり僕を止める。
橋の欄干へと歩み寄り僕は足をかけた。
違うけど目的地は同じだ。
僕が僕なりの日記に記すならこう書くだろう。
知ったかで生きる人間。
僕は肉食動物でもあり、狭い草食動物。
見えたのは自分に無害の絶望。
ただ、それは他人を覆うもの。
ひとつの光を見つけるとそれは語りだしそれを追う。
さあ、行こう。
その翌日、川辺に一人の男性の死体があったとか。死因は溺死だが溺れるほどの深い川でもなければ、成人男性ともなると膝にも満たない水位なのだ。
さらに不思議なことにそれは片手に一冊のノートを持っていた。川の水で濡れて文字が滲み黒くこねられた点の羅列。
ただ判断できるのはタイトルと思われる最初の一文字目がひらがなの「お」であることは間違いない。なぜかそれは滲むことなく表紙を黒く輝かせる。
「あなたは僕の妹なんかではない」
「違うよ。私のお兄ちゃんじゃん」
「違う、違う」
「違わない」
「ならどうして僕より老いているのだ」
こんな夢を見たのだ。天国へ行くと上官に伝えられ天国行きの電車に乗っていたら寝てしまった。恐怖が私の全てを埋めて電車を壊した。あまりの重さに電車は耐えられなかったのだ。
死んでも幸せになんかなれないんだね。あの夢がずっと流れるんだよ。
医師にそう私は診断された。異国語を英語のリスニングのように聴き取った気分で頭に聴き取った語を並べる。だけど、それがなんなのか暗い背景を確実として出なかった。
ファストフォワード症候群とは若くして歳老いてしまう病気で異常な白髪やしわの艶が衰えたり、もちろん視力も。白内障とかも発症しやすいようだ。
珍しい病気なので、ともう一度復唱する医師。私は完璧に聴き取ってしまう。
「先生、それは治るのでしょうか」
「残念に確かな医療技術は確立されていません。遺伝子で起こる非常に稀な病気でございまして……」
「私は、私はまだ生きたいのです」
先生は悪くない。ただ、悪いのは私でもない気がする。でも、悪い。
「先生。私は、私は……」
このワンシーンを夢と思いたかった。だから、家に帰って何度も頬を叩いた。
覚めろよ、覚めろよ、覚めろよ……。
答えは事前に知っている。夢でも物語でもない。今目の前にあるのは現実という恐怖だ。
私はこのことを誰にも言わないと決めた。例え、親にも兄にも友達にも、そして最近できた彼氏にも。医師と相談して決めたのだ。
翌日の通院。
「僕は患者の思いを叶えたいと思う。そしてその思いも医師をしていて何度も直面してきた」
医師はこう言う。だけれど、これは言って良いのだろうか。口ぱくだ。
「迷惑は嫌なんです。小さい頃から誰とせずに迷惑をかけてきました。最後も私はそうしてしまうのでしょうか。私は嫌です」
何を言っているのかと言わんばかりに耳を私の口元に近づけてきた。わかる訳ないのに、その先生の患者の思いを受け止めようという思いはなんなのだろう。私一人の存在で台無しにしてしまってないだろうか。
「すみません、先生」
「謝らなくていいよ」
思いは告げなかった。有耶無耶がより複雑となり絡まっていく。だから、こうしよう。
一冊のノートに『私のお菓子』と名付けて字を刻む。
「久しぶり。珍しいね、実家に帰ってくるの」
車を走らせ私は実家へと来た。久しぶりに会う家族の顔は少し心を弾ませてくれた。久しぶりに聞いた兄の声。なんかまた低くなったのかな。
「最近仕事忙しいからさ、気分転換みたいな?」と私は言い訳。ごめんね、お兄ちゃん。
「そうか、そうか。ゆっくりしていきね。お菓子、羊羹あるけど食べたい?」
私は頷いた。そして、このとき羊羹を出してくれたとき嬉しかった。小さいときにお婆ちゃんの影響でよく羊羹を食べてすっかり気に入ってしまった。
目を瞑ってでもどこに何があるか、ここにはこんな色の家具があるとかわかってしまう。一八年間お世話になった実家が幼少期の時を載せるアルバムのようだった。そして、それらは一つの長いフィルムとなってつながり、映画のように頭に流れる。思い出すとキリがない。
他はどんなことをしたっけなってこれを書いているときに思った。でも、大丈夫だよ。最後の実家はちゃんと心に焼き付いているよ。その後はご飯作ってくれたよね。お兄ちゃんの得意なチャーハンだった。
*
「昼だから何か作るけど、もう食べた?」
「食べてないから作ってほしいな」
残り何回食べれる、いや駄目だ。診断結果を聞かされたあのときから私は"残り"とものの最初につけるようになってしまった。これに気づいたのはすぐだし、すぐにやめようと思った。でも、心に深く抉られた傷跡はすぐには癒えない。
お兄ちゃん特製の昼ご飯はチャーハンだった。男ならではなんだと思う。男の友達も、友達の兄弟も何故か男子の得意料理はチャーハンが絶対だった。それを知って確かお兄ちゃんと笑ったな。どうでも良いことで笑うって……。
そんな経験、最近はめっきりご無沙汰だった。実家ってなんだか偉大だ。
醤油と卵の匂いが鼻にガツンとくる。あー、それと焼豚の濃いタレの匂い。
「今日も上手くできた。最近上手く作れるんだよね」
「凄いじゃん。昔はあんなに味にばらつきがあったりだとか、お米がフワフワし過ぎてチャーハンと呼べなかったのに」
悪いな、と兄は言う。なんか、笑った。だから、私もそれに釣られて笑った。
*
「成長の兆しはどうだい?」
私は拳を前に突き出し親指を立てた。美味しいよ、という意味だ。私たちは子供の頃によくこんなやりとりをしていたから瞬時に兄は理解しただろう。
私は嬉しかった。長年経ったけど、こんな些細なことも通じるんだって。
*
だから私は口にした。
「お兄ちゃん。私、病気になった」
いろんな病院を転々とした。私が口にしてお兄ちゃんはすぐに行動を起こしてくれた。まずは、前提として私の病気について調べてくれた。
「若くして歳をとる病気。こんなのあるんだ」
お兄ちゃんが口にしたこの言葉を胸に留める。いつ死んでしまうかわからない体をどうにか支える魔法の粉とならないだろうか。
助けは十分だった。
「お母さんとお父さんには言わないで」
無理もない。散々迷惑をかけてきた母と父に最後まで私を救うなんてみっともない。だからふと溢すんだ。
時が経つとふと疑問に思った。兄にも迷惑をかけたことを思い出した。
私の"しや"は狭い。
私の"しや"は暗い。
実家に帰ってから、兄にずっと看病してもらっていた。私は実家を出た。迷惑なんだよ。私なんか。
せめて、最後の恩返しだ。
心の支えとなってきた『私のお菓子』を置いて私は旅たった。
妹の死が知れ渡ったのは一冊のノートを見つけて一ヶ月後のことだ。見えない者を幽霊とする風習が僕の住む町に広がるようになった。
ただ一人の僕だけが知るそれは、歩く死人。地面など踏めてはいなかった。
「迷惑だなんて思っていなかった。たった一人の妹を放っておくとか考えなかった」
「それならそうと早く言っとけばよかった。私は悪くない。全て兄、いや家族という無理な組み合わせが私をおかしくさせた」
止めなかった……。
幽霊はそう呟いて最後に泣き出した。ああ、止めなかった。
あのノートを見た。『私のお菓子』っていう可愛らしい題名をしている割には"死"って言葉をいっぱい使って呪いのノートかと思った。
「君が望んだことを僕は真っ当したかった。ただそれだけなんだよ。題名が気になってノートを何度も読み返した」
老若男女問わず大好きなお菓子は可愛らしい。食べていくたびにそれは減っていくからまたさらに可愛くうつる。終いに最後の可愛さを失ったものはすぐ捨てられる。ノートに書いてあった。"私は包みたくない。例えそれが誰であろうとも"って書いてあった。それがお菓子の袋を指すってことはわかったし捨てられるって聞いて何かしらの感情を持っているのも想起させた。
「包まなくていい。袋を所持しない君はお菓子になれたんだ。だから、僕という袋を抜け出してお菓子の望む自由を包んで消さないようにした」
「やっぱり私のお兄ちゃんだ。だけど違うんだ。ただただ迷惑をかけたくなかっただけなんだ」
妹は続ける。
「私はお菓子になんかなれなかった。袋も裂いて自由になんかなれなかった。家を出て半ば自由になれた。だけど、どうだ。あても何もないとそれは絶望への一本道だった。確実なんて言葉を咲かすことができない。果てるを除いてだった」
妹は背を見せた。
「自由が怖いってわかった。だから、兄という存在を待って頼ってみた。止めて欲しかった。だけどわかっていた。私が出る前も兄はわかっていなかった」
家を出る前に妹は僕に幼いときよりもたくさん構ってくれていた。それを思い出して一気に気づくことができなかった自分を酷くつらく思った。死ぬことがわかっている人が死にたいと思うはずがない。残された命を懸命に生きる妹を支えるなんてこと自分はできていなかった。お菓子もまたそのサインかもしれない。
「失うのが怖いんだ」
妹は言う。
「死ぬ時は何も思わないで死にたかった。死ぬ間際まで頭をパンパンにするなんて。格闘した。何もかもなくしたい自分とそれを作り出してしまう自分。結果は一進一退の攻防の末周りをも飲み込む戦乱。広い範囲で私の死を邪魔をし結局は幽霊となって潔く死ねなかったのだよ」
だからここにいるんだ、と最後に呟く妹。遠くの方で泣いていたんだ。なんで、僕はわからなかったんだろう。
「僕が君をわかるには……」
妹の戯言はこれにて否定と拒絶に変わり僕を止める。
橋の欄干へと歩み寄り僕は足をかけた。
違うけど目的地は同じだ。
僕が僕なりの日記に記すならこう書くだろう。
知ったかで生きる人間。
僕は肉食動物でもあり、狭い草食動物。
見えたのは自分に無害の絶望。
ただ、それは他人を覆うもの。
ひとつの光を見つけるとそれは語りだしそれを追う。
さあ、行こう。
その翌日、川辺に一人の男性の死体があったとか。死因は溺死だが溺れるほどの深い川でもなければ、成人男性ともなると膝にも満たない水位なのだ。
さらに不思議なことにそれは片手に一冊のノートを持っていた。川の水で濡れて文字が滲み黒くこねられた点の羅列。
ただ判断できるのはタイトルと思われる最初の一文字目がひらがなの「お」であることは間違いない。なぜかそれは滲むことなく表紙を黒く輝かせる。
「あなたは僕の妹なんかではない」
「違うよ。私のお兄ちゃんじゃん」
「違う、違う」
「違わない」
「ならどうして僕より老いているのだ」
こんな夢を見たのだ。天国へ行くと上官に伝えられ天国行きの電車に乗っていたら寝てしまった。恐怖が私の全てを埋めて電車を壊した。あまりの重さに電車は耐えられなかったのだ。
死んでも幸せになんかなれないんだね。あの夢がずっと流れるんだよ。