──僕以外の人間と呼ばれる生物が、この世に居なくなってから随分と時が過ぎ去った。

「レオ……朝ごは、ん、でき……たよ」

姉のレイナが、ぎこちない動きに、たどたどしい言葉で微笑んだ。

「ありがとう、すぐ行くよ」

(レイナはまた不具合か……)

僕はレイナに返事をすると、睨めっこしていた古い図面を机の引き出しに仕舞った。

すぐにダイニングに向かえば僕の大好きなスクランブルエッグとキュウリとツナのサンドイッチをテーブルに並べてある。

「美味しそうだ」

僕の言葉に、レイナがギィっと音を立てながら小首を傾げる。

「それ、は、良かた………紅茶入れ……るね」

「大丈夫、それは僕がやるよ」

僕はレイナの背中を支えながら、椅子に座らせるとレイナが蒸らしておいてくれた紅茶の入ったポットをマグカップに注いでいく。

そして僕はふと、すんっと鼻を鳴らした。

(あれ……においがしないな……)

つい最近までは紅茶の良い香りがしていたのに、いまは全くしない。

(僕も歳かな……)

人間は老いていくと、味覚も嗅覚も少しずつ退化していくと亡き父から聞いたことがあった。