──ありがとう、真実ちゃん。

私は優しく返事をする。

「いいえ、どういたしまして」

そのまま、下足ホールに向かって廊下を歩き出せば、すぐにまた私の声が脳細胞を伝って聞こえてくる。

──あの、トイレに行ってくれない?

「しょうがないわね……」

私は目についた女子トイレに入ると、鏡に自分自身を映し出した。そこには、快感で笑みを漏らす私とは対照的に、《《怯えた表情の私》》が映っている。

──お願い、私に触れて……

「ねぇ、真実? 今まで私達、この身体でなんでも分け合ってきたじゃない。楽しいことも、嬉しいことも悲しいことも、ムカつくこともね」

そう、私と真実は一卵性双生児としてこの世に生まれるはずだった。それなのに私の体は、出産まで持ち堪えることができず鼓動を止めてしまった。そのかわりに私は、もう一人の真実としてずっとこうやって、真実の中に棲んでいた。

そして真実と私が入れ替わることができる方法はひとつだけ。私と真実の精神を交代するには、鏡に映した自分の頬に触れなければならないのだ。