「……どうしよう……もう限界っ」

私は、誰もいない一階の女子トイレで鏡に向かって問いかけた。鏡の向こうの私は、涼しげな一重瞼をこちらに向けている。

「……このままじゃ……今日も……」

そう、もう耐えられない。
堪えきれない。
このままじゃ、心が壊れてしまう。

私は意を決すると震える掌で、鏡の中の自分の頬に10年ぶりに触れた。ヒヤリと冷たい無機質な感触が掌に広がる。


──その時だった。目の前がぐらりと揺れて私は咄嗟に目を瞑った。



「……真実(まみ)ちゃん?」

小さな声が背後から聞こえてきて、目の前の鏡の中には私と同じクラスの理子(りこ)が映っている。私は慌てて振り返った。

「……何かしら?」

「あ、誰かと話してるのかと……」

「あら? 見ての通り、私一人よ」

「そ、そうよね……」

理子が不思議そうな顔をしながらも、トイレの出口を指差した。

「そろそろ、時間だから……あの、いつも私の代わりに……ごめんね」

(謝るぐらいなら、しなきゃいいのに。偽善者ね)

「分かったわ、行きましょ」

私は、理子の背中を見ながら、ふっと笑うと理子のあとを静かについていく。