私、恵まれてたんだな…。

ふいにそんな思いにかられ、私は自分が生きていた時代を思い返す。

私が住んでいた市は、わりと都会だったし電車もバスも、地下鉄もたくさん通ってて…。

1本くらい乗り遅れてもすぐに次がやってくるし、どこの公共施設も冷暖房完備で居心地もよかったし…。

「確かに雨だと大変ですね…」

「まぁ、大変やけど、天気の機微なんかわからんし、しょうがないんやけどな」

ハハッと明るく笑う次郎さんにつられて、私も思わず笑顔になった。

その後しばらくは、次郎さんと他愛もない会話に花を咲かせていた私。

途中、次郎さんの計らいで休憩を取らせてもらいつつ、ようやく町の入口にたどり着く。

つ、ついた…!

私は、大きく伸びをしてキョロキョロと辺りを見回した。

やはり、町というだけあって人の数も多いし、色々なお店が並んでいる。

「…10時か。そしたら葵ちゃん。おじさんは、野菜を卸してくるからな。夕方にここに戻ってくるんやで」

懐中時計で時間を確認した次郎さんは、私に向かってそう声をかけた。