「見てみて大和ぉ~いい感じに出来たワンよ」

 二本立ちで立ち上がる子狐わん太郎。
 その前足二本で持つ布が、ふぁさりと開く。
 そこには屈辱的なほどに、完璧な白い布があった。

「お、お前それどうやって作ったんだよ! さっきもそうだったけど、糸から布を作るって凄いことだぞ?」
「んぁ? えっとねぇ~氷の針をつくってね、えいえい(・・・・)ってしたんだワン」

 そういうと、わん太郎は氷の針を見せると、そのまま糸の中へと突っ込む。
 さらにどうやっているのかが全く分からないが、また布を作り出す。

『あんな駄犬に出来るのに主ときたら……』
「ぐぬぬ。も、もう一度だ!」

 負けられない戦いがここにある。そう、ここが関ケ原だッ!!

『石田三成みたいな顔をしていないで、糸を持ち集中してください』
「なぜ分かったし!? く、見ておれ家康(たぬき)め」
『誰がたぬきですか、ダ・レ・ガ』

 そう、気分は負け戦だ。が、俺はやってみせる。
 右手に持った糸に意識を集中させ、さっきと同じ反応が来るのを待つ。
 今度はもっと簡単で、想像がしやすいデザインにしようと意識を集中。

 糸がピクリと動き出し「来た」と一言静かに言うと、相棒が『今度はゆっくりと魔釣力(ま゛ちょうりょく)を込めて』とアドバイス。
 それに「わかった」と応えつつ、〝スキル:器用貧乏〟を使用。
 両手よりにじみ出ながら消費する、(マナ)(ポイン)(ちょう)の感覚に脂汗が額にうかぶ。

 次第に形になっていく感覚が、体全体で感じるようになった。
 その不思議な感覚に「すげぇ……」と漏らすと、相棒が『気を抜かないで集中してください』としかられる。

 確かに気を抜くと、一気に糸がほつれる感覚を感じて焦りがうまれ、一層ほつれだす。
 が、一度経験した失敗の手応え。それは確実に失敗を回避し、成功への呼び水となる。
 
「落ち着け……そう、複雑な釣り糸の結び(FGノット)より簡単だ。結びめ(ノット)を組む感覚でコイツにも――」

 そう思った瞬間、一気に糸と糸がキツく編み込まれ、さらに引き締まる感覚を感じる。
 自分でも驚くほどに糸が布になっていく事を実感しつつ、一気に「布になれ!!」と強く叫ぶ。
 すると、たわんでいた部分が急激に集まりだし、一枚の布となった。

「おお! 出来たぞ見てみろよ、完璧な布ってやつだ!」
『たしかに布ですね。ですが……』

 相棒のやつがいいずらそうにしている。
 なぜだ? うん、分かっている。だってコイツは――。

「タオルデスモンネ」
『それでは衣服とはいえないでしょうね。主よ、今の(マナ)(ポイン)(ちょう)はいくらあります?』

 その問に「えっと」と言いながらス釣タスを確認する。
 するとかなり減っていて、それをそのまま伝えた。

「のこり五十ってところか。けっこう減ったな」
『主がスキル:器用貧乏で作り出すと二十消費ですか……なら衣服作りはここまでですね。この後、食料採取にも使うかも知れませんし』
「食料も大事だけどさ、このまま歩くの嫌なんだけど?」

 そう言いながら出来たての少し茶色い白い布を腰に巻いてみる。
 すると二十センチほど腰を一周するには足りなく、どうしたものかと思っていると、わん太郎が左足にひんやり(・・・・)とした肉球をポムリ当ててきて話す。

「ねぇねぇ大和ぉ。これあげるんだワン」
「ん? おお、それはいいな! ありがとう、わん太郎」
『また駄犬からほどこしを……いいですか主。次は自分でつくらないとだめですよ?』
「ふふん。駄棒には出来ないことを平然とやってのける。そこに痺れて憧れるんだワン」
『雑魚っぽいセリフありがとうございます』

 いったいこの二人(?)に何があったのだろうか? まぁ俺にはわからない世界なのでヨシとしよう。
 それはさておき、わん太郎がくれたのは、俺の敗北の象徴たる〝わん太郎が簡単に作っていた布〟であり、やっぱりヤツの顔が刺繍されたものだ。
 どうやって刺繍をしたんだと聞くと、どうやら体毛らしい……ちょっと微妙。
 とはいえ、これで腰を一周するくらいには布地が出来上がり、巻いてみようとおもったが、ある事にきがついてしまった。