『かみおりたちこううあり
めぐみのあめはりゅうとともにき
いかづちささりて
むかえさすはおつるみこ
へきてんにえんこうかがやきりゅういっつい
りゅうはこしかたにかえらん
わかつかみむかえみこのそうじょうにて
さとおりたちてこううあり
へきてんもおなじに』

朗々と歌い上げるその歌声は泉の水面を渡り山へと吸い込まれていく。空気がさわさわとたなびき、やがてぴたりと止まると、千代も舞を止めた。しゃん、と最後に神楽鈴が鳴った。

一言も発さず千代の舞を見守っていた村人たちが一斉に沸く。

「新しい巫女さまだ」

「神様をお迎えできるぞ」

「この村は安泰だ」

瀬楽が見守る中、方々から喜びの声が聞こえて、千代も最初の仕事を無事終えることが出来たと思った。これから刻一刻と、千代の人生はなくなっていく。その恐ろしさを胸に感じている一方で、千代の舞とそれに沸く村人たちを冷ややかに見ていた者たちもいた。

「やあね、舞を踊ってくらいであんなに騒いで」

「大袈裟やわ」

「おまけに、巫女の身分で瀬楽に媚びとるところが、私、嫌い」

突き刺さるような声が千代の耳に届く。特に最後の言葉は、瀬楽に想いを寄せる璃子(りこ)の言葉だった。千代は弱い笑みの形の唇を張り付かせたまま視線を下げ、寂しげに俯いた。おまじないのように、胸元に忍ばせた勾玉に白衣(びゃくえ)の上から触れる。

……誰も、千代の心に刺さったままの棘には気付かなかった。