『元は一つだが、別れてしまえば別の魂。我がそなたを愛したことが魂の自由なら、そなたがこの器を愛したことも、また魂の自由ゆえ』
蒼い瞳で微笑みかける龍神に安堵する。そうやって、天に居た時、地上に降りた時、共に千代と歩んでくれた龍神だったのなら、千代の気持ちが分かっているのではないか。
『お前の望みを叶えよう。そして我とともに来い』
「龍神様。私が龍神様のお役に立てるのなら、こんなに嬉しいことはありません。でも、みっちゃんは……、千臣さんだけは連れて行かないでください……っ」
幼い頃から今までの千代を心の底で支えてくれた千臣にだけは、生き残って欲しかった。千代が龍神の御子だというこの命と引き換えに叶えてもらえることがあるのなら、それ以外は願わない。
龍神は千代に微笑んだかのように見えた。そして千代の手を取ると、再び空気を切り裂く音とともに目が潰れるくらいの閃光が地面に落ち、一瞬で龍神と千代はその光に包まれた。そして、その閃光に続いてざあっと降って来たのは、銀糸の雨。
「あ……、雨だ! 龍神様が雨を降らせてくれたんだ……!」
村人が喜びに天を仰ぎ、再び境内の結界を見た時、其処には千代と男の姿はなく、銀糸の雨が細く長く降り注ぐ空には、一対の白龍が天を目指して昇っていく姿があった。
「りゅ……、龍神様だ……! 龍神様が天に昇って行かれる……!」
人々は雨が降りしきる中、天高く昇っていく一対の龍を見守った。
「……千臣さんは、龍神様の御使いだったの……」
空を見上げていた璃子は呆然と呟いた。だとしたら、人間の自分に振り向いてくれなくても仕方がない。神様には神様に相応しい相手が居る。そして、璃子のすぐそばで瀬楽も立ち尽くしていた。
「……村長さま……」
璃子や村人と同じように一対の龍を見上げていた瀬楽が、千代の祖母にぽつりと呟いた。
「……俺、千臣さんに悪いことをしてしもうた……。千代を盗られまいと思うがばっかりに……」
寂しそうに空を見上げる瀬楽に、村長は深く微笑んだ。
「若い恋もあってエエ。いろんな経験を経て、人は大人になるんやからな」
しわくちゃの手が、瀬楽の背を撫でて、瀬楽は拳で目じりを拭った。璃子も、村長の言葉をひっそりと聞いた。
雨は青空の許、さあさあと振り続け、龍が駆け上ったあとには眩しい太陽と大きな虹が出ていた。…大桜の花は、散ってしまっていた……。
蒼い瞳で微笑みかける龍神に安堵する。そうやって、天に居た時、地上に降りた時、共に千代と歩んでくれた龍神だったのなら、千代の気持ちが分かっているのではないか。
『お前の望みを叶えよう。そして我とともに来い』
「龍神様。私が龍神様のお役に立てるのなら、こんなに嬉しいことはありません。でも、みっちゃんは……、千臣さんだけは連れて行かないでください……っ」
幼い頃から今までの千代を心の底で支えてくれた千臣にだけは、生き残って欲しかった。千代が龍神の御子だというこの命と引き換えに叶えてもらえることがあるのなら、それ以外は願わない。
龍神は千代に微笑んだかのように見えた。そして千代の手を取ると、再び空気を切り裂く音とともに目が潰れるくらいの閃光が地面に落ち、一瞬で龍神と千代はその光に包まれた。そして、その閃光に続いてざあっと降って来たのは、銀糸の雨。
「あ……、雨だ! 龍神様が雨を降らせてくれたんだ……!」
村人が喜びに天を仰ぎ、再び境内の結界を見た時、其処には千代と男の姿はなく、銀糸の雨が細く長く降り注ぐ空には、一対の白龍が天を目指して昇っていく姿があった。
「りゅ……、龍神様だ……! 龍神様が天に昇って行かれる……!」
人々は雨が降りしきる中、天高く昇っていく一対の龍を見守った。
「……千臣さんは、龍神様の御使いだったの……」
空を見上げていた璃子は呆然と呟いた。だとしたら、人間の自分に振り向いてくれなくても仕方がない。神様には神様に相応しい相手が居る。そして、璃子のすぐそばで瀬楽も立ち尽くしていた。
「……村長さま……」
璃子や村人と同じように一対の龍を見上げていた瀬楽が、千代の祖母にぽつりと呟いた。
「……俺、千臣さんに悪いことをしてしもうた……。千代を盗られまいと思うがばっかりに……」
寂しそうに空を見上げる瀬楽に、村長は深く微笑んだ。
「若い恋もあってエエ。いろんな経験を経て、人は大人になるんやからな」
しわくちゃの手が、瀬楽の背を撫でて、瀬楽は拳で目じりを拭った。璃子も、村長の言葉をひっそりと聞いた。
雨は青空の許、さあさあと振り続け、龍が駆け上ったあとには眩しい太陽と大きな虹が出ていた。…大桜の花は、散ってしまっていた……。