「……、…………っ」
無心で踊っていた千代に、何かが触れた。あの、本殿でしか感じることのできなかった気配だった。千代が気配の方を見ると、其処に突如として、ドオン、という音をさせて凄まじい雷が落ち、地面からは煙が立ち込めた。
「……!」
人々が驚く中、煙が消えた後にはご神体の水晶を持った千臣が其処に立っていた。
「ち……、千臣さん……!?」
突然結界の中に現れた千臣を驚いて見ていると、どうも様子が違う。もともと長かった髪の毛は腰の下まであって色も白銀の髪、真っ白い着物を着た袖から出る宝珠を持つ手の爪は長く尖っている。額には二本の枝のような角、そして、纏う空気が神社の本殿で感じた、あの蒼くて清涼な空気だった。
千臣に似たその人は、持っていた輝く宝珠を瞑れた片眼に押し当てた。すると水晶が目の中に沈み込んでいって、潰れていた目が開いた。両眼は白い光を宿した深い瑠璃の蒼の瞳で、その両目で呆けている村人たちを見てこういった。
『時が来た。我が御子を天に貰い受ける』
村人は何も言うことが出来ない。まるで金縛りにでもあっているかのようだ。
その人は視線を村人の後ろでおびえる蛟にやった。
『蛟。此度そなたは出過ぎた。妖が神を騙(かた)るなど言語道断。貴様の沼に、追って裁きがあると知れ』
頭の中にこだまするその声に、蛟が何かを言いたそうにした。しかし、その人は蛟の言うことには耳を貸さず、今度は千代に向き直った。
『御子よ。あの時、お前は幼すぎたが、機は熟した。今こそお前を我が身(龍神)の半身として迎えよう』
目の前で起こっていることが理解できず、混乱している千代に、龍神だと名乗る男はやさしく額に触れた。
途端に千代の頭の中に流れ込んで来る記憶たち。それらは、あのうたの許となった、郷を見守って来た龍神の記憶だった。
恵みの雨が神龍の来訪と共に降るようになったこと。
いつしか郷に神さまを迎えるには、天界に居る龍神の力と、下界に降りたった御子の力を必要とするようになったこと。
そんな中、青空の許、丸い陽の光が輝いた中を、雷と共に一対の龍が郷に舞い降りたこと。
それが地上に生まれ落ちた千代と千臣だったこと。
千代が自らの運命を受け入れ、けなげに務めに励んでいたのを千臣が見ていたこと。
そして千臣は、御子たる千代を迎える準備をする為に、天に帰らなければならなかったこと。
郷から去った龍神が、御子の奏上で、再び郷に降り立ったこと。
なにもかも全て、最初から決まっていたことなのだと、龍神は千代に語り掛けた。
「何もかも、全て……? ……じゃあ、私が千臣さんのことを想ってしまったことも、決められていたことなの……?」
定められた運命によって、自分の気持ちは決まってしまったのだろうか。千代が不安に思う中、龍神はやさしく千代に語り掛けた。
無心で踊っていた千代に、何かが触れた。あの、本殿でしか感じることのできなかった気配だった。千代が気配の方を見ると、其処に突如として、ドオン、という音をさせて凄まじい雷が落ち、地面からは煙が立ち込めた。
「……!」
人々が驚く中、煙が消えた後にはご神体の水晶を持った千臣が其処に立っていた。
「ち……、千臣さん……!?」
突然結界の中に現れた千臣を驚いて見ていると、どうも様子が違う。もともと長かった髪の毛は腰の下まであって色も白銀の髪、真っ白い着物を着た袖から出る宝珠を持つ手の爪は長く尖っている。額には二本の枝のような角、そして、纏う空気が神社の本殿で感じた、あの蒼くて清涼な空気だった。
千臣に似たその人は、持っていた輝く宝珠を瞑れた片眼に押し当てた。すると水晶が目の中に沈み込んでいって、潰れていた目が開いた。両眼は白い光を宿した深い瑠璃の蒼の瞳で、その両目で呆けている村人たちを見てこういった。
『時が来た。我が御子を天に貰い受ける』
村人は何も言うことが出来ない。まるで金縛りにでもあっているかのようだ。
その人は視線を村人の後ろでおびえる蛟にやった。
『蛟。此度そなたは出過ぎた。妖が神を騙(かた)るなど言語道断。貴様の沼に、追って裁きがあると知れ』
頭の中にこだまするその声に、蛟が何かを言いたそうにした。しかし、その人は蛟の言うことには耳を貸さず、今度は千代に向き直った。
『御子よ。あの時、お前は幼すぎたが、機は熟した。今こそお前を我が身(龍神)の半身として迎えよう』
目の前で起こっていることが理解できず、混乱している千代に、龍神だと名乗る男はやさしく額に触れた。
途端に千代の頭の中に流れ込んで来る記憶たち。それらは、あのうたの許となった、郷を見守って来た龍神の記憶だった。
恵みの雨が神龍の来訪と共に降るようになったこと。
いつしか郷に神さまを迎えるには、天界に居る龍神の力と、下界に降りたった御子の力を必要とするようになったこと。
そんな中、青空の許、丸い陽の光が輝いた中を、雷と共に一対の龍が郷に舞い降りたこと。
それが地上に生まれ落ちた千代と千臣だったこと。
千代が自らの運命を受け入れ、けなげに務めに励んでいたのを千臣が見ていたこと。
そして千臣は、御子たる千代を迎える準備をする為に、天に帰らなければならなかったこと。
郷から去った龍神が、御子の奏上で、再び郷に降り立ったこと。
なにもかも全て、最初から決まっていたことなのだと、龍神は千代に語り掛けた。
「何もかも、全て……? ……じゃあ、私が千臣さんのことを想ってしまったことも、決められていたことなの……?」
定められた運命によって、自分の気持ちは決まってしまったのだろうか。千代が不安に思う中、龍神はやさしく千代に語り掛けた。