水凪がそう言い、殴りかかる右手の中に水の渦を作り出すと、それがみるみる巨大になり、投げ出した拳と共に千臣を襲った。当然、巨大な津波のような水は千臣を押しのけ、その場には千代だけが残る筈だった。……しかし水凪の意図に反し、千臣は水を被ってもその場に佇み、いや、水に触れたような気配も見せない。水凪はその様子に驚愕し、目を見開いた。瀬良もまた、驚愕の目で千臣を見つめる。
「お、お前、何者だ……!」
水凪の怒号に対し、千臣は冷静なままだ。
「俺は、千代を愛するもの。そして、今度こそ千代の手を取ると決めたものだ」
まっすぐに水凪を睨み返す千臣の視線にたじろいだ水凪が、次の瞬間、何も言わずにその場で飛び上がって、神社の屋根伝いに森の方へと消えていった。水凪と千臣のやり取りに呆然としていた千代を、千臣がやさしく腕に抱く。瀬良は、水凪が跳び退った方角と、千代を交互に見比べた。
「……、なんやったの、今の水凪様は……」
「気にするな。千代は俺を信じて居ていてくれればいい」
信じて……。でも、水凪の水は草も濡らしたのに、今それを被った千臣が一滴も水に濡れていないのも気になる。不安そうに千臣を見上げると、千臣は目を細めて微笑んでくれた。
「心配いらない。千代が願ってさえくれたら、俺はなんだってできる」
千臣はそう言うが、千代の目の前には神との婚姻に、郷の少雨と、千臣では手の施しようのない問題がある。これらをどうにかしない限り、千臣と並んで立つことすら、許されないような気がした。
「千臣殿、あんた一体、なにもんなんや」
瀬良の問いに、千臣は答えない。瀬良が、二人を物の怪を見るような目つきで見つめていた。
「お、お前、何者だ……!」
水凪の怒号に対し、千臣は冷静なままだ。
「俺は、千代を愛するもの。そして、今度こそ千代の手を取ると決めたものだ」
まっすぐに水凪を睨み返す千臣の視線にたじろいだ水凪が、次の瞬間、何も言わずにその場で飛び上がって、神社の屋根伝いに森の方へと消えていった。水凪と千臣のやり取りに呆然としていた千代を、千臣がやさしく腕に抱く。瀬良は、水凪が跳び退った方角と、千代を交互に見比べた。
「……、なんやったの、今の水凪様は……」
「気にするな。千代は俺を信じて居ていてくれればいい」
信じて……。でも、水凪の水は草も濡らしたのに、今それを被った千臣が一滴も水に濡れていないのも気になる。不安そうに千臣を見上げると、千臣は目を細めて微笑んでくれた。
「心配いらない。千代が願ってさえくれたら、俺はなんだってできる」
千臣はそう言うが、千代の目の前には神との婚姻に、郷の少雨と、千臣では手の施しようのない問題がある。これらをどうにかしない限り、千臣と並んで立つことすら、許されないような気がした。
「千臣殿、あんた一体、なにもんなんや」
瀬良の問いに、千臣は答えない。瀬良が、二人を物の怪を見るような目つきで見つめていた。