「ほ、……ホンマに……? ホンマにみっちゃんなん? 『みっちゃん』は水凪様のことやと思たのに……」

『みっちゃん』が水凪なら、歌になぞらえれば、幼少期にこの郷から居なくなった理由が分かると思ったのに……。信じられない気持ちの方が大きくて、声が震えてしまう。ずっと会いたかった。夢にまで見てしまうほど。でもそれが現実となったら、嘘のような気がしてならない。それなのに千臣が微笑んで手を広げてくれるから……、今度こそ消えないで、という想いを込めて抱き付いた。

「みっちゃん……! みっちゃん、みっちゃん…っ、わたし、会いたかったんやから……! ずっとずっと、会いたかったんやから……っ!」

ぎゅっと腕を首に巻き付けると、千臣も千代の背を抱き締めてくれる。丘を駆けた時につないだ手が戻ってきたようだった。着物を通して伝わる千臣の体温に安堵して涙が溢れてくる。一見冷徹そうな外見とは違う、ぬくもりを持った体温……。

「待たせたな、すまん」

低くて甘い声が鼓膜で溶ける。背を撫ぜてくれる律動がやさしい。溢れた涙を千臣の胸の中で拭うと、今までどうしてたん? と問うた。

「千代を迎えに来るために、修行していた。言っただろう? 小さい頃のあのままでは、俺は千代の手を取るに足りなかったと」

そうだ、そうだった。だから千代も、千臣を見送ったのだった。

「だから、もうこの郷からは出て行かない。約束通り、千代の傍に居る」

抱き締められる体温に、鼓動が走る。さわりと頬を撫でる風が涼やかに感じるくらい、千代はみっちゃんとの再会に、感動と興奮を覚えていた。

「みっちゃん……」

囲われた腕の中、頬を擦りつけると、安心しきってしまいそうになって、ハッと我に返る。婚姻の儀の舞の時に千臣が厳しい目付きで千代を見て来ていたのは、迎えに来るという約束を破った千代への怒りだったのかもしれない。だが既に、千代は水凪の嫁となってしまった。

いや、もともと千代は巫女として、水凪に人生を差し出すこと以外を認められていない。水凪の手に堕ちるべく運命を決められ生まれついたのだと歌で説明してくれたのは、他でもない、千臣だ。だから、子供の頃の約束がどうであれ、千臣が千代を迎えることは出来ないのだ。千代は自分を抱き締めてくれる千臣の腕からそっと離れた。