「千代、数え十八の春、おめでとう」
翌日は村総出のお祭りになった。神様を『お迎えする』巫女の誕生だと、村中が喜びに賑わっている。千代は現在の巫女である千代の祖母からの祝いの言葉をもらって、静かにこうべを垂れた。千代の前には祖母から譲り受けた神楽鈴が置かれている。代々巫女の家系に伝わるもので、飾りの帯は擦り切れていたが、千代が受け継ぐにあたり新調したそうだ。五色(ごしき)の帯には和泉の紋模様が施されている。
いかづちの郷の巫女には神やあやかしの万物を『視る』力が必要とされ、千代の祖母には『視る』力があるが、千代にはまだその兆候は見られない。しかしご神託があるから巫女として神職に就くことが許された。そういう訳で、巫女の証の神楽鈴も祖母から譲り受けるのだ。
「お前はたぐいまれなる声にも恵まれた。これからは神様に歌声を捧げると良い」
「はい」
深くもう一度こうべを垂れ、そうして祖母を真正面に見た。
澄んだ瞳だ。黒くて全てのものを見通すかのような目。祖母の目には、千代の未来はどう見えているのだろう。千代の不安を、祖母は間違いなく汲み取る。
「お前は良い巫女になる。自信を持ちなさい」
「はい」
良い巫女とは、上手に神様をお迎えすることが出来る、と言う事だろうか。もう、とうに諦めきってしまっていた人生を今一度諦めて、千代は顔を上げた。そして、今しがた祖母から受け継いだ神楽鈴で龍神様に奉納の舞を行うことになっていた。神社の社の周りに集まった村人が、千代の舞を待っていた。社の隣には龍神様が宿るとされる泉がある。泉の水面は鏡のように蒼天をうつし、太陽が美しく輝いていた。
神楽鈴が郷を囲む山々に染み渡る音を奏でる。しゃん、しゃん、しゃん、という音が神様の泉の水面をさざめかせていた。千代は腕を張り、つま先を伸ばして舞を舞った。ざあ、と風が吹き抜け、樹々が歌う。千代もそれに合わせて歌った。