「では次だ。次は少し難しい。『へきてんにえんこうかがやきりゅういっつい』。『りゅういっつい』は先程の『龍』についてだ。龍が『一対』、つまり二匹が一緒にいることを言っているのだと思う。千代は、雷が落ちるときに一対の龍がその地に水を与えることを約束して天に上る、という話を知っているか? この『龍一対』はそのことをさしているのだろう。つまり龍は二尾一対が基本だ、と言いたいのだと思う」

初めて聞く話に、千代は固唾を呑んで聞き入った。博学な千臣から語られる全てのことが、千代に目新しい。

面白い! 面白い! 面白い!

自分の郷に関係のあることでも、知っていくことがこんなに面白いなんて!

知らなかった一刻まえの自分は、なんてうつろな人生を歩んできたんだろうと思う程に、世の中は面白いことで溢れていた。知れた自分はなんて幸運なんだろう。千代は千臣に先を促した。

「そ、それで? それで、一対の龍神様はどうされたのですか?」

「はは、まあ待て、千代。その前にこれも明かさねばならない。『へきてんにえんこうかがやき』だが、『へきてん』とは『青い空』のことだな。『えんこうかがやき』は、青い空に『耀く』んだから、おそらく『えんこう』は丸い光……、つまり太陽のことだ。さっきの部分と繋げると、こうだ」



『雷が地上に落ち、
神を迎える相手は、落ちた巫女と決まった。
青い空に太陽の光が丸く輝き、その中を龍が一対(二匹)泳いだ』



「続いては千代の知りたかったことだが、こうだ。『りゅうはこしかたにかえらん』、冒頭の『りゅう』は先程の龍だな。では『こしかた』はどうだ?」

「……全然分かりません……」

眉尻を下げて言うと、そんな情けない顔をするな、と笑って慰められた後に解説が続く。

「『こしかた』は『来し方』、つまり来た方角を指す。『かえらん』くらいは見当がつくか?」

「……帰ろう、ですか?」

千代が答えると、千臣は惜しい、と微笑んだまま、人差し指を顔の前で立てた。

「これは『帰ってしまった』という意味だろう。つまり、青い空の中に泳いだ龍は、来た方角に帰って行った、という意味だ。しかし、ここで問題がある」

千臣が千代の方を向いて、なぞかけをする。千代は、今までの流れに問題があったかどうか、反芻した。

(龍神様は恵みの雨と共にやってきてくださる……。そして何かの偶然で雷が落ちた時に、神さまをお迎えするのは『落ちた巫女』て決まったんやわ……。龍神様はそれを決めて、いらした方角へ帰って行かれた……。……って、あれ?)