「さて、続きだな。『めぐみのあめはりゅうとともにき』。これは今言った降雨のことを恵みの雨だといっていて、それが龍と共にやってくる、と歌っているんだ」

さらさらと、綺麗な文字で歌を書き記す千臣の手を見ながら、千代は歌の内容を頭に叩き込んだ。



『神さまがこの郷にやって来て、雨が降った。
その雨は恵みの雨で、龍と共にやってくる』



成程、そうやって解説されると、歌の意味がよく分かる。

「次……。次はなんて歌っているんですか?」

千代は好奇心に刺激され、前のめりになりながら目を輝かせて千臣を見た。千代を微笑んで見守りながら、千臣が続ける。

「『いかづちささりて』。『いかづち』は先程言ったように、『雷』のことだ。つまり、雷が刺さった……、落ちたんだな」

「はい」

「『むかえさすはおつるみこ』、ここが大事だ。むかえさす……つまり『迎えさせるのは』、『おつるみこ』……、『落ちた』『みこ』であると言っている。何を『迎えさせる』のか。先代に託されたご神託は『神さまを千代が迎える』ということだったのだろう? つまりここでは、神さまを迎えさせるのに、『落ちた』『みこ』である千代が選ばれた、ということを言っているのではないかと思っている」

落ちた巫女……。落ちた巫女って、何だろう。千代は疑問を素直に口に出した。

「落ちた巫女って、なんですか?」

「さあ。それは千代が龍神を迎えた時に分かるのではないか? 見たところ、千代はまだ水凪殿と婚姻の儀を終えてないだろう」

言い当てられて、千代は顔を赤くして黙り込んだ。

そうなのだ。水凪は千代を嫁だと言いふらしている割に、夜は何処かへ行ってしまって、千代の許に通ったことがない。千代も求められていないから、まだ水凪を前に婚姻の舞を舞っていない。お互いに踏み出し合っていない、というのは分かっているが、こういう時は男性から一歩、踏み込んで欲しいと思うのだが、それは神さま相手に思い違いなのだろうか。

みっともない赤面を見られたくなくて、手で頬を覆う。チラリと指の間から千臣を窺えば、千臣は何食わぬ顔をして千代を見ていた。つまり、自分に含むところはない、という事を示しているのか。水凪に責任をなすりつけた罪悪感から逃れたくて、千代は歌の続きをねだった。

「次。歌の次に行きましょう」

誤魔化すようにそう言うと、千臣は、ははは、と笑って次を続けた。