郷の歴史を鑑みれば、郷の人が千代を祀り上げるのも分かる。千代にも、自分の親が死んだような飢饉をもう二度と繰り返したくない、という思いで龍神を迎える巫女になることを決意した気持ちがある。しかしその一方、千代が普通の娘だったら、両親は今も生きていたかもしれないという悔いから、自分がご神託の娘でさえなければ、と言う思いはあった。

祖母の口寄せの儀式を見てしまった後は、自分のこれからの人生を否定された気がして、尚更そう思った。その、人知れない悩みは千代に郷の人たちへの後ろめたさを培い、千代の心の中で葛藤を続けた。この十年以上を掛けて、今のようなあきらめの境地に至るまで、千代にしてみれば長い時間を要した。諦めた顔の千代に、瀬良が再び声を掛ける。

「千代。俺が神さまをお迎えしようとする千代に体当たりしてでも、千代を助けたる」

「……瀬良、ええねん……。私は巫女やもん、みんなの役に立たな。……その代わりにな、継承の儀式の時は、ちゃんと見とって欲しい。私の……、最初で最後の晴れ舞台や」

俯く千代に、瀬良はもう掛ける言葉がなかった。自分の未来を知りながら巫女修行に努めた立派な彼女を、どうして神様はのっとってしまうのか。それが神の在り方なのか。瀬良は居もしない神様を憎く恨んだ。