「……水凪様には言えへんのですが、実は私、神さまをお迎えすることを、とても怖いことやと思ってたんです。子供の頃に祖母が口寄せをしてるのを見て、神さまを郷にずっとお迎えした状態にするために、私の体を乗っ取るんやと思うてたんです。……今考えたら、水凪様にとても申し訳ない誤解をしてたんですね……。水凪様は私の不安を知って、私の体を使う以外の方法で、郷を潤してくださろうとしてはる……。あんなこと考えとったんが、ホンマに罰当たりやったと思います……」

静かに静かに語った千代の言葉を、千臣は黙って聞いていてくれた。話し終わると、そうだったのか、と一言相槌を打ち、こう訊ねた。

「そもそも千代は、何故自分が神を迎える人間に選ばれたのか、知っているのか? 龍神もやみくもに自分を迎える相手を選ぶわけではないだろう。君が神に選ばれる人間たる所以が分かっていれば、そんな恐ろしい思いはしなくて済んだのではないか?」

確かにそうだ。自分の人生が十八の継承の儀で途切れると思っていた頃、何故、何度も生まれ来る和泉の神社の巫女のうち、自分でなければいけなかったのかと辛く思っていた。何故、自分なのかと、辛い夜を送ってきた。しかし祖母からは千代が生まれるときに賜ったというご神託の内容以外、教えられていない。

「十八年前、旱(ひでり)の梅雨と凶作の秋から半年後の春、雷鳴と共に私が生まれたそうです。その時に祖母に神さまからのご神託があり、生まれた子供……私ですね、は『神様を迎える子』なのだと言って、消えたそうです。もともとこの郷には古い歌が伝わっていて、それが龍神様のことを歌った歌だったので、私がお迎えする神様というのは龍神さまだとみんなが信じたんです」

千代が言うと千臣はそうか、と言って黙った。

「……千臣さん?」

「あ、いや、それだけでは理由は推し量れないな。歌と言うのは?」

「あ、はい。龍神様にお届けするときに歌う歌で、この郷と神様の関係を描いた内容だとか……」

この話は祖母からの受け売りだ。千代は抑揚を付けながら、歌を述べあげた。

かみおりたちこううあり
めぐみのあめはりゅうとともにき
いかづちささりて
むかえさすはおつるみこ
へきてんにえんこうかがやきりゅういっつい
りゅうはこしかたにかえらん
わかつかみむかえみこのそうじょうにて
さとおりたちてこううあり
へきてんもおなじに