「神様、よくおいでになってくださいました……」

青年が満足そうに微笑んで、尚更瀬楽の興奮は増した。丘を駆け下りて村の方へと駆けていく。

「皆あー! 神様だ! 神様がいらしたぞーっ!」

村中に瀬楽が触れて回って、その言葉に家から出てきた村人総出で丘に居た神様を迎えた。

「なんと、神様、よおおいでくださいました!」

「直ぐに宴の用意をいたします!」

「ささ、神社へどうぞ!」

村中の人間が神様のお出ましに湧いている。今まで千代を蔑んでいた娘たちも、この騒ぎに慌てて家を出てきた。

「神様ですって!?」

「ホンマに?」

半信半疑だった娘たちも、村人が総出で水凪を歓迎している様子を見て、狼狽した。千代が神様をお迎えするなんて、言い伝えだけの話だと思っていたのだ。娘たちは自分たちの振る舞いを神様に告げ口されたくなくて、口々に彼を褒めた。

「龍神様なんて怖いお方かと思うてたのに、なんて美しい方やの」

「とてもお優しそう」

村の外れの丘から神社まで連れてこられた水凪は神社に招かれていた。村人たちが日々神様と対面していた場所だ。古く昔からこの郷を見守って来た水凪にも思うところがあったのか、少し本殿に一人にしてくれと言われて、千代たちはその間に宴の用意をした。

水凪は一刻程すると本殿から出てきて、村人たちの歓迎を受けた。神社では村人が入りきらなかったので、村一番の大きな家の光裳(みつも)の家にみんなで集まった程だ。

宴には村のありったけのご馳走と酒が並んだ。水凪の食も進み、村人の興奮も最高潮となる。

「神様! 瀬楽に見せたという、水の渦、私たちにも見せてください!」

「おお、是非!」

盛り上がった村人に、水凪も悪い気はしないようだった。すいと手を掲げてその空(くう)を見つめると、視線の先に小さな翠の水が渦巻き、それが手のひらほどの大きさになる。

ぐるぐると渦を巻いて動く液体に、人々は、おおお、と叫んだ。

「神様!」

「お祀りした甲斐があった!」

「もう水の心配は要らない!」

「この村は安泰だ!」

万歳をしながら口々に叫ぶ村人を、目を細めて水凪が見る。その時、開け放った戸の外から風が入って、水の匂いが立ち込めた。