青年の言葉に、千代は大きな目をぱちりと瞬きした。
「あなたが……?」
青年は蒼色の髪を靡かせ、少し垂れた美しい翡翠のような瞳で微笑んでいる。水色の波模様の着物から覗く肌は白くきめ細やかで、明朗な活舌の響くような高音の声は石を投げ打った水の音のようにも聞こえた。纏う空気からは水の匂いがして、もしかして、龍神様なのかとも思える雰囲気だ。
「……では、貴方様が、龍神様……?」
千代の問いに、水凪は穏やかに微笑んだ。水の、匂い、が、する。
「失礼!」
ぐい、と千代は瀬楽に腕を引かれて、背に庇われた。はっとして瀬楽を見ると、瀬楽は神様のことを検分するような目つきで見ていた。
「貴方が神様やという証拠は?」
瀬楽の問いに、水凪は、はは、と軽く笑った。
「俺に証拠を示せと言うか。……では、これでどうだ」
水凪が手のひらを上に差し出した。その上に、薄翠の液体が現れて渦を巻き始め……、手のひらがぐっとそれを包むと消えてしまった。
「……っ!!」
「このように水を操る力は、人にはあるまい」
青年が握ったこぶしの指の間からは、ぽたぽたと水が滴り落ちていた。乾いていた草が濡れる。
「で……、では、ホンマに……っ!? 郷に降りるには千代を乗っ取らなんとアカンのやなかったんですか!?」
「なにゆえ、そのようなことを言う。神を迎える巫女と婚姻を交わし、俺がこの地に根付く。この郷にそのように伝わっていると思ったが、聞いてないか」
祖母が言っていたご神託のことだ、と千代は気が付いた。では、本当にこの方が神さまなのだ。婚姻のことなど何も聞いていないが、ご神託のことを郷の人以外で知っているとしたら、それはその本人である神様だけだ。
瀬楽が興奮を抑えきれないように、肩を震わせた。彼も、神が千代を乗っ取らずに郷に降りてくれたことを喜んでくれているのだろう。一部始終をぽかんと見ていた千代も、漸くその事態の大きさを知る。神さまを郷にお迎えし、なおかつ自分が生きていられる。未来が輝き、千代の頭の中は興奮でいっぱいだった。すっとその場に膝と手をつき、万感の思いでこうべを垂れる。
「あなたが……?」
青年は蒼色の髪を靡かせ、少し垂れた美しい翡翠のような瞳で微笑んでいる。水色の波模様の着物から覗く肌は白くきめ細やかで、明朗な活舌の響くような高音の声は石を投げ打った水の音のようにも聞こえた。纏う空気からは水の匂いがして、もしかして、龍神様なのかとも思える雰囲気だ。
「……では、貴方様が、龍神様……?」
千代の問いに、水凪は穏やかに微笑んだ。水の、匂い、が、する。
「失礼!」
ぐい、と千代は瀬楽に腕を引かれて、背に庇われた。はっとして瀬楽を見ると、瀬楽は神様のことを検分するような目つきで見ていた。
「貴方が神様やという証拠は?」
瀬楽の問いに、水凪は、はは、と軽く笑った。
「俺に証拠を示せと言うか。……では、これでどうだ」
水凪が手のひらを上に差し出した。その上に、薄翠の液体が現れて渦を巻き始め……、手のひらがぐっとそれを包むと消えてしまった。
「……っ!!」
「このように水を操る力は、人にはあるまい」
青年が握ったこぶしの指の間からは、ぽたぽたと水が滴り落ちていた。乾いていた草が濡れる。
「で……、では、ホンマに……っ!? 郷に降りるには千代を乗っ取らなんとアカンのやなかったんですか!?」
「なにゆえ、そのようなことを言う。神を迎える巫女と婚姻を交わし、俺がこの地に根付く。この郷にそのように伝わっていると思ったが、聞いてないか」
祖母が言っていたご神託のことだ、と千代は気が付いた。では、本当にこの方が神さまなのだ。婚姻のことなど何も聞いていないが、ご神託のことを郷の人以外で知っているとしたら、それはその本人である神様だけだ。
瀬楽が興奮を抑えきれないように、肩を震わせた。彼も、神が千代を乗っ取らずに郷に降りてくれたことを喜んでくれているのだろう。一部始終をぽかんと見ていた千代も、漸くその事態の大きさを知る。神さまを郷にお迎えし、なおかつ自分が生きていられる。未来が輝き、千代の頭の中は興奮でいっぱいだった。すっとその場に膝と手をつき、万感の思いでこうべを垂れる。