戦いに勝利した俺たちは、そのまま森の屋敷へと帰還する。
屋敷ではエルフのほか魔王軍の部下たちが俺たちの帰りを待っており、盛大な歓声で出迎えてくれた。
すでに水晶玉で戦勝の報は皆に伝わっており、先んじて祝勝会の準備がなされている。
その会はエルフたちが催してくれたもので、彼らはハシュバールの侵攻を防いでくれた俺──つまり魔王軍に深く感謝し、改めて同盟と友好の意を示してくれたのだった。
(けど、エルフってもっと厳格な種族かと思ってたけど……案外そうでもないんだな……)
祝勝会では趣向を凝らした料理が振舞われ、エルフたちは魔王軍の人間兵たちと交わって、和気あいあいと杯を酌み交わしていた。
特に意外だったのがフィーネだ。彼女は酒が入ると少々性格が変わってしまうらしく、俺を疑った族長たちを引っ張って来ると、それ見たことかと言いたげに、彼らに向かって謝罪を要求した。
「だーから言ったでしょーが! クロノ君はものすごく強いから心配ないって! それにー、裏切るなんて絶対ありえないってー、わーかったでしょう!?」
「う、うむ……すまなかった」
彼女は同胞の謝罪を確認すると、赤ら顔で「にひひ」とこちらに笑みを見せる。
「よーし、じゃあ今日は飲みましょう! とことん飲んで、私たちとクロノ君たち、異種族間の友情を深めるのよー! ほら、クロノ君も遠慮しないでしないで!」
「え? あ、ああ」
フィーネさん……すでにかなり飲んでるようだが、これ以上飲む気なのか。
……大丈夫かこの人。そう思いながら引き気味に返事をすると、隣の男族長が先程とは別の意味で頭を下げる。
(も、申し訳ない……)
(いえ、気にしてませんから)
苦笑しつつも、無言でそんな感じの視線を交わす。
俺は一杯だけ杯を受けると、適当なところで席を外させてもらった。
▽
「……さて、と」
それから俺は他の四天王たちとロゼッタを自室に招集する。
祝勝会を楽しむのもいいが、ほどほどにして俺にはすべきことがあった。
それは今後の戦力を増強させ、整えること。
そのための作戦会議を四天王とロゼッタで行うのだ。
今回の戦いでもそうだったように、俺たちが対処しなければならないのは魔王軍の元帥だけじゃない。
国外の勢力、魔族と友好関係を結びたがらない他種族にも、気を配っておく必要があった。
特に、ハシュバールの背後にいる竜族の国家、ドラグニアの動きには一番の注意を払わなければいけない。
竜族は戦力の大きさもだが、考えていることも得体が知れないからだ。
そして、それらの敵から仲間たちを守っていくためには、軍備増強が喫緊の課題となる。
今のままの戦力では、正直まだ心もとない。
とりあえずこちらの味方として考えていいのは、アストリアが率いる氷魔族と、魔王軍に所属する人間たち、それからフィーネをはじめとしたエルフの民だが……それでも周囲の諸勢力に対抗するには、いささか数が少ないといえる。
「あとは、魔王個人に忠誠を誓う穏健派と……クラウディアやフレイヤの人脈から引っ張ってきて……俺たちについてきてくれる兵をどれだけ増やせるかがカギだよな……」
皆を待つ間、そんな皮算用を頭の中で行う。
ただ、兵士の数も重要だが、それと同時に個々の強さを上げることも考慮すべき事項の一つだった。
突出した強さの魔族は、文字通り一騎当千の力を持つ。
すなわち、戦局は将兵単騎の強さに左右されるのであり、彼ら一人一人の強さを上げておくことはこの先の戦いでは不可欠となる。
そして、その強さを増幅させる術を、礫帝たる俺は持っている。
今から皆に話すのは、その強化手段、魔石を使った魔力上昇法についてだった。
コンコンコン
「やはー。来たよ、クロノー」
「ああ、どうぞ入って」
ノックとともにフレイヤをはじめとした四天王の三人が部屋にやって来る。
少し遅れてロゼッタが到着し、俺たち五人は部屋の奥にある円卓を囲んだ。
そうやって席についた後、早速用件に入らせてもらう。
「えー、それじゃいいかな。ここにいる全員に、今から魔石を渡したいと思う。これは各属性に適合する者の魔力を大幅に増幅させるものなんだ。これを使って俺たち幹部の戦力アップを図りたいと考えてるんだけど……何か意見のある人は?」
「え、クロノ。それって……以前もあたしたちにくれなかったっけ?」
俺の言葉に、フレイヤが少しだけ怪訝な顔をして問う。
「ああ、そうだよ」
俺は一旦うなずいた後で、「ただし」と付け加えて説明を続けた。
「ただし、これは前に配ったのとは比べ物にならないほど上昇率が高いんだ。魔石自体の希少価値も高く、区分としては上位魔石……いや、最上位魔石と呼んでいいかもしれない。これを身に付けることで、俺たち四天王はかなりの魔力上昇が見込めるはずだ」
「へぇー。かなりっていうと、具体的には……どのくらい?」
「そうだな……単純換算で、少なくとも今までの五倍以上になると思う」