「兵士が着てた鎧が気になるって……どういうこと?」

 昼間、戦闘を行った場所に戻る途上で。
 フィーネは怪訝な様子で、俺にそう尋ねた。
 
 周囲はもう暗く、カンテラを灯しながら俺たちは森の中を歩く。
 エルフのお偉いさんにこんな夜回りをさせるのは申し訳ないが、早急に確かめておかなければと思ったのだ。

「鎧っていうか……正確には鎧に付いてた竜鱗が気になるんだ。それって鉄とかの鉱物じゃなくて、竜の身体から採取した素材ってことだろ。いくら魔法を弾くとはいえ、そんなものを身に付けて大丈夫なのかと思ってさ」

「何かおかしいかしら……? 冒険者の中には亀の甲羅を盾にしたり、毛皮を着る人だっているじゃない」

「だとしても、竜は人と交わらないだろ。彼らは神に近い存在と言われていて、とても気位が高い。それは悪く言えば傲慢でもある。そんな彼らが自分たちより劣る種族に自らの体皮を与えるなんて、どうも妙な感じがするんだよ」

 竜族の生体は人や獣とはまるで異なる。
 秘めた力のポテンシャルは他種族を遙かに上回り、未知の部分も多い。
 単に毛皮を着るのとはわけが違うのだ。
 昼間の敵兵が妙に好戦的だったことに違和感を覚えた俺は、その原因が竜鱗にあると思い、確認のため同じ場所へと戻ってきたのだった。

「──さて、それじゃあ始めるとするか」

 そして、目的の場所についた俺たちは、高く盛られた土壁へと向かう。
 それは先刻俺が生き埋めにした兵士たちが埋まっている土塁だ。
 魔力で土を振動させて、中から遺体の一つを取り出す。
 その遺体の右腕から手甲を外し、触れないように布でくるむと、それをフィーネの足もとに置いた。

「……で、これを鑑定すればいいわけね。具体的には何を知りたいの?」

「ズバリ、『この竜鱗が有害か否か』。俺の予想では毒か薬剤か、人体に何らかの悪影響を及ぼすものが入ってると思うんだが……」

 フィーネは「わかったわ」と小さくうなずき、鑑定魔法を発動させる。
 空中に魔法陣の輪が出現し、それが地面と垂直になるように傾くと、竜鱗の手甲をくぐり抜けるように進んでいった。
 ゆっくりとスライドする光の輪。最後まで通り抜けてから、陽炎のように魔法陣が消失していく。
 それから彼女は神妙な顔つきになると、「……大当たりね」とつぶやいた。

「この竜鱗には高濃度の魔素が含まれているわ。おそらくこれに触れ続ければ、強い精神汚染を受けることになるでしょう」