どうも奇妙な生活だな、と思う。

 だってアレだ。魔王と四天王のうちの二人が、田舎でのんびり同居してるってどうなんだ。

 今日も朝から四人で食卓を囲んで朝食を摂っていたけど、これってどういう家族構成なんだとモヤモヤしながら、俺はバタートーストをかじっていた。

 まあ、先日の諜報部員のこともあるから、おいそれとロゼッタに帰るよう言えなくなったことも確かだが……。
 しかし、王都の全員が敵ってわけでもないし、やっぱり彼女は一度中央に戻るべきじゃないだろうか。

 そんなことを考えてクラウディアに相談を持ち掛けたら、何故か呆れたような顔をされた。

 クラウディアはロゼッタに娘の子守りを頼むと、「ちょっとこっち来なさい」と俺を自室に引っ張っていく。

「クロノ君、察してあげなさいよ。ロゼッタ様はああやって気丈に振舞ってるけど、先代が亡くなってからまだそんなに日が経ってないのよ? もう少しここでゆっくりさせてあげなさいな」

「あ、そうか……」

 俺はなるほどとうなずく。

 うかつなことにその事実を失念していた。
 いや、覚えてはいたけど、ロゼッタの様子があまりにもいつも通りなので、つい考慮に入れずにいたのだ。
 確かに彼女の今の境遇を考えると、まだしばらくは休ませてあげた方がいいように思う。

 ただ、それならもう少し気の利いた保養地とかの方が良くないだろうか。
 この村はのどかでいいところだけど、逆に何もなさ過ぎて退屈でもある。
 それに屋敷から離れているとはいえ、村民も人間ばかりだから、ロゼッタにとって居心地が悪くないだろうか。

 それらのことをクラウディアに尋ねると、今度はちょっと怒ったような口調で「だからぁ」と顔を寄せられた。

「ここがどういう場所かなんて、この際どうでもいいのよ。大事なのは、誰がここにいるか。わかる? 私はあなたのことを言ってるのよ、クロノ君」

「……ごめん。正直言って、全然わからないんだが」

「だからね。気心の知れたあなたがここにいるということが重要なの。そもそもロゼッタ様がここに来た理由は、あなたが軍籍を剥奪されたからでしょう? 傷ついている時、誰の傍にいてあげたいか、誰が傍に居て欲しいか……一番いとおしく思う人のところにいたいってこと、普通に考えて理解できないかしら?」

「……ふむ」

「どうなの、わかった?」

「まあ、何となく。要するに、先代を除けば一番付き合いの深い、俺が一緒にいてやった方がいいってことなんだな」

「そうそう」

「うん。まあ、地位を抜きにすればロゼッタは妹みたいなもんだからな。確かによく知ってる奴のところなら休まるっていうのは、理解できるよ」

 しかし、クラウディアは俺のその言葉を聞くと、脱力したようにガクっと両肩を落とした。

「あ、あのねぇ……。クロノ君、そういうことじゃなくて……」

 そして彼女は、諦めたように「ロゼッタ様も苦労するわ……」と、部屋を出て行く。

 ……何かおかしかっただろうか。

 俺が首をかしげていると、そこで玄関のベルが鳴らされた。

 その日は村長の定期報告の日でもなかったので、来客は珍しいなと思い、正門まで足を運ぶ。
 すると、立っていたのはよく知った顔。

 『氷帝』、アストリア・ブリード。
 来訪者は俺やクラウディアと同じ四天王でもある、蒼い髪の魔族の少年だった。

 門を開けると、どこか深刻そうな表情の彼と目が合う。

「アストリアじゃないか。久しぶり……っていうか、珍しいな。お前がこんなところに来るなんて」

 俺が言っても、アストリアは何故か返事を返そうとせず、背負った長剣のベルトをぎゅっと不安げに握った。

 というか、そもそも初めてじゃないだろうか、アストリアがここに来るのは。
 彼は魔族の中でも北方の名家の出で、四天王に抜擢されるまではそこから出たことがないと言っていた。
 おそらく人間の村にも来たことはないだろう。

 そんな彼が何用なのか、ともあれ旧交を温めようと邸内へ促す。

「まあ、入れよ。ロゼッタもクラウディアもいるから、久しぶりに皆で──」

 と、言いかけたところ──

「──っ、クロノさんっ、ごめんなさいっ!」

 ズバァッ!

 アストリアは挨拶すらなしに、いきなり剣を抜き、俺へと斬りかかって来た。