「デーニッツが死んだというのは本当なのか!?」
部下からの報告を聞き、空魔元帥は声をあげて問いただした。
「は。昨夜から定時報告もなく、遠視と魔力探知を行ったのですが、捕捉不可能となっております。これは死亡以外にはありえないことかと……」
「何だと……」
彼はわなわなと震え、ふらつきながら席に着く。
「あの短慮なデーニッツのことだ。先走って魔王の怒りにでも触れたのだろうなぁ」
「なんとまあ、成果のないことよ」
海魔元帥と陸魔元帥が、人ごとのように笑って言った。
「おぬしらっ……我が軍の損失を何だと思っておるのだ!」
「はっ、何が『我が軍の損失』だ。空魔元帥よ、これは貴様の至らなさによる『貴様の失敗』ではないか」
「まさに海魔元帥殿の言う通り。クラウディアを使いにやって、魔王を取り戻す──そのための手段などいくらでもあると言ったのは、他ならぬ空魔元帥殿であろう」
「ぬ、ぐっ……」
とがめようにも二人に痛いところを突かれ、空魔元帥は歯噛みする。
彼は八つ当たり気味に机を叩いて言った。
「そうまで言うなら、おぬしらがやってみればよかろうが! こちらを罵るにしても、まずは結果を出してからにしてもらいたいものだな!」
「無論よ。ならば次は、我ら海魔軍に任せてもらおうか」
拒否することもなく、海魔元帥が自信ありげに名乗りをあげた。
「……海魔元帥殿よ、どのようにするおつもりかな? どこぞの無能のせいで、今は雷帝クラウディアまでが向こうに付いてしまっておるが」
「ははは、心配ご無用。我が軍を率いておる『氷帝』アストリアはすでに我が手中にある。どこぞの無能と違って、奴は思いのままに動くのだ。まあ、見ているがいいわ」
いちいち当てつけてくる言葉に、空魔元帥は二人をにらむ。
だが、気にした様子もなく、両者は空魔元帥を嘲るように会話を続けた。
海魔元帥が言ったことは、実際のところ嘘偽りはない。
彼はアストリアについて、他の四天王すら知らない『ある秘密』を握っていた。
それがあるゆえにアストリアは彼の命令に従わざるを得ず、事実この後、アストリアはクロノたちの村へと出立することになる。
しかし、そうやって人の弱みに付け込んで他者を操ろうとした者が、最終的にどのような末路をたどるのか……彼はデーニッツ死亡の報告を聞いても、それを決して自分に重ね合わせることはしなかった。